【考える葦】

某男性アイドルグループ全活動期メンバーで、左利きな彼(稲垣吾郎)を愛でる会

『羊と鋼の森』と『ゴロウ・デラックス』

2016年5月19日に放送された『ゴロウ・デラックス』第206回目のゲストは、2016年4月12日に本屋大賞を受賞されたばかりの小説家・宮下奈都さん。

 

 

ピアノは、弦をハンマーで叩くことで発音する鍵盤楽器の一種である。鍵を押すと、鍵に連動したハンマーが対応する弦を叩き、音が出る。

                Wikipediaピアノ 』より

 

 

羊と鋼の森』のタイトルにある“鋼”とはピアノに使われるその弦のことで、そして“羊”とは鍵を押すと連動するハンマーに使われる羊毛フェルトを意味し、ピアノの調律という仕事に魅せられたとある青年の成長を描いた物語である。

本屋大賞『羊と鋼の森』にも描かれた、ピアノ調律師の世界とは? 〈BOOKSTAND〉|dot.ドット 朝日新聞出版

冒頭から今回の話が好きだと、最近はピアノをよく聴くと語った吾郎さん。2015年の秋に「No.9 - 不滅の旋律 -」という舞台でベートーヴェンの役を演ずることになり、劇場にピアノが入った時には調律を見に行ったりもしたそうな。なので今回はお会いできるのが楽しみだと口にする吾郎さんに、本屋大賞受賞式で一足先に宮下さんとお会いしていた外山さんは「SMAPの中で1番ゴロウさんがお好きだそうです」と言うものの、「ホントかな」と吾郎さんは猜疑的。いやいやいや、文系の女性に吾郎さんは強いと思いますよ、マジで。

そんな宮下さんをゲストに迎えた今回の課題図書は、

 

羊と鋼の森

羊と鋼の森

 

 

本屋大賞の授賞式で宮下さん自身が「歴代の受賞者の中でも宮下の知名度のなさは抜群」と自虐的に語ったとおり、宮下奈都さんといえば本好きという通が好む作家といった面が強く、事実、昨今の文芸書は売れない傾向にあるとはいえ、初版で6,500部は出版社が抑え気味だとしてもかなり少なすぎる。だが、今回の本屋大賞受賞をきっかけに現在は50万部を突破するというヒット作品となっています。

ゴロウ・デラックス』の収録は本屋大賞受賞してから1ヶ月ほど経った一番忙しい時期で、受賞後のテレビ出演は初めてと仰る宮下さんは、“嬉しいですよね、この番組を選んでもらって”と口にする吾郎さんに“会いたくて♡”来ましたと告白。

まだご本人は受賞した実感がピンと来ないそうですが、本屋さんに行き、自分の本が積んであるのを見ると思わず「おおぉ~!!」感動してしまうのだとか。ただ、恥ずかしいのであまりそっちには行けないそうですが。

そして本屋大賞授賞式に取材に訪れる『ゴロウ・デラックス

吾郎さんに冒頭でシラフで行ったの?と失礼なことを言われた外山さん(w)ですが、ちゃんとしっかり取材は行います。会場を埋め尽くす大勢の人たちは、大半が普段は書店員として本屋さんで働いていらっしゃる方ばかりなのだとか。実は本屋大賞は書店員有志で組織する本屋大賞実行委員会が運営しているのです。

 

 

本が売れない時代と言われます。出版市場は書籍、雑誌とも年々縮小傾向にあります。出版不況は出版社や取次だけではなく、もちろん書店にとっても死活問題です。 その状況の中で、商品である本と、顧客である読者を最も知る立場にいる書店員が、売れる本を作っていく、出版業界に新しい流れをつくる、ひいては出版業界を現場から盛り上げていけないかと考え、同賞を発案しました。

                  『本屋大賞』設立の経緯

 

 

まず2014年12月1日から2015年11月30日の間に刊行された日本の小説が対象となります。その対象小説を2015年11月1日より2016年1月3日までの期間で全国435書店552人の方が1人3作品の第1次投票を行い、その集計の結果、上位10作品が「2016年本屋大賞」ノミネート作品として決定されます。

そして2016年1月20日から2月29日までの期間、その10作品すべてを読み、全作品の感想を書き、ベスト3の順位をつけて投票するという流れになっていますので、本当に書店員さんたちの熱意によって支えられている賞といえるでしょう。ちなみに投票の得点換算は1位=3点、2位=2点、3位=1.5点として4月12日に発表されたわけです。なお、2016年本屋大賞ノミネートされた『羊と鋼の森』を除く9作品は、

 

 

朝が来る 作者: 辻村深月文藝春秋

王とサーカス 作者: 米澤穂信東京創元社

君の膵臓をたべたい 作者: 住野よる双葉社

教団X 作者: 中村文則集英社

世界の果てのこどもたち 作者: 中脇初枝講談社

戦場のコックたち 作者: 深緑野分(東京創元社

永い言い訳 作者: 西川美和文藝春秋

火花 作者: 又吉直樹文藝春秋

 作者: 東山彰良講談社) 

 

 

となります。今回の受賞は1位の宮下奈都さん『羊と鋼の森』が372点、2位の住野よるさん『君の臓腑をたべたい』が327.5点、3位の中脇初枝さん『世界の果てのこどもたち』が274点でした。実は今年の第154回直木賞でもノミネートまでいったものの、受賞を逃していた『羊と鋼の森』。本屋大賞は当初「直木賞を与えられなかった良作にも何らかの賞を」という目的も掲げていたらしいので、今回はその目的も果たす素晴らしい結果が出たといえるかもしれません。

 受賞の副賞は本屋大賞らしく図書カード10万円分、そして最後に参加された書店員さんたちとの記念撮影。しかも皆さんが手にしていたのは、それぞれ宮下さんの本を応援するための手作りPOP。最後にはこのPOPを作家さんに手渡しするのが恒例行事なのだとか。私は書き手でも何でもありませんが、このPOPは本当に応援する書店員さんたちの気持ちが込められているため、下手な賞を受賞するより感動しますよね。

その書店員さんの中にはわざわざ広島からお越しの方もいらっしゃって、「5年ほど前に宮下さんの作品を皆で売ろうと、“書店員秘密結社”を作った」ということで、2010年にTwitter上で全国の書店員さんが結成した秘密結社で「スコーレNo.4 (光文社文庫)」を猛プッシュして、増刷(重版出来!)に成功するほど多くの書店員から愛されている宮下さん。

その受賞直後のインタビューに外山さんが入りましたが、なんというか『ゴロウ・デラックス』がいかに出版社から、そして作者からも信頼を得て、ここまで許される番組になったんだなあと感慨深いです。その授賞式に参加した外山さんの感想の上擦った声からも、どれだけ素晴らしい式であったかも伝わってきますし、番組としてこの授賞式に参加できたのはさらなる強みになっていくのではないでしょうか。

そして、物語の外村という主人公が「調律師」という仕事と向き合うシーンを吾郎さんが朗読。

 

 

長く部屋の隅に忘れられたピアノがあり、ひどい環境下に打ち捨てられたピアノがあり、それでもこの仕事に希望があるのは、これからのための仕事だからだ。

僕たち調律師が依頼されるときはいつも、ピアノはこれから弾かれようとしている。どんなにひどい状況でも、これからまた弾かれようとしているのだ。

僕にできることは、何だ。考えるまでもない。迷いもない。

このピアノをできる限り、いい状態に戻すことだけだ。

(中略)

調律を済ませたらピアノを売るのかもしれない。半分くらい、そう思っていた。そうであったとしてもいい。

このピアノが、ここに来たときの状態に戻すのは無理でも、ここで過ごした長い年月を味方につけて、今出せる精いっぱいの音を出せるようになればいい。

                    『羊と鋼の森』一部抜粋

 

 

朗読後の「これからのためだけの仕事、自分の仕事とも照らし合わせたり、何かを極めていく仕事の方、みんな読んでほしいな」と述べる吾郎さんに、ふわんと力が抜けたように、でも嬉しそうに柔らかく微笑む宮下さんが素敵でした。

そして主人公である外村が高校2年生の秋に「調律師」との運命的な出会いをするシーンを外山さんが朗読。

 

 

通っていた小さな小学校にも、中学校にも、ピアノはあったはずだ。ここにあるようなグランドピアノではなかったけれど、どんな音が出るのかは知っていたし、ピアノに合わせて歌ったことだって何度もあった。

それでも、この大きな黒い楽器を初めて見た気がした。少なくとも、羽を開いた内臓を見るのは初めてだった。そこから生まれる音が肌に触れる感触を知ったのももちろん初めてだった。

森の匂いがした。秋の、夜の。

僕は自分の鞄を床に置き、ピアノの音が少しずつ変わっていくのをそばで見ていた。

たぶん2時間余り、時が経つのを忘れて。

                     『羊と鋼の森』一部抜粋

 

 

物語の主人公が調律師になりたかったわけではなかった話から、宮下さん自身も作家というのが選択肢にはなかった話に。結婚して36歳で3人目のお子さんがお腹にいるときに、突然「この子が生まれるまでに小説を書きたい」という衝動に駆られ、書いた「静かな雨」が第98回文學界新人賞佳作に入選し、小説家デビューに至ったと。

そして本屋大賞受賞1週間後の書店回りをされる宮下さんに同行することになった『ゴロウ・デラックス』のスタッフ。 東京、神奈川に続く3日目の広島スケジュールでは12:30に1軒目のお店へ、14:30に2軒目、15:15に3軒目、16:00に4軒目、16:45に5軒目、大量のサインに右手は疲れないのかと問いかけるスタッフに、逆に本を抑える左のほうが痛いといいながら、これは何か小説のネタになるのではないかと考えていたと答える宮下さんは転んではただでは起きない作家さんです。

そして17:30には本日最後となる6軒目のお店へ。お店の前では『羊と鋼の森』応援Tシャツを着てスタッフがお出迎えです。拍手での歓迎に宮下さんも思わず涙。その後も広島の書店員さんたちとの懇談会も行われて大忙しです。

 

 

ちなみに1軒につき何冊ぐらいサインを書くのかと問われた宮下さんが、1番多かったのが240冊だと答え、外山さんはちょっと多いので考えていただきたいと反応していましたが、実はサイン本は書店の買取扱いになるんですね。サインを記入されたということは汚損本扱いになってしまうため、本来ならば書店で売れなかった本は版元さんに返品できますが返品不可となり、書店の不良在庫となってしまうのです。つまり、サイン本はメリット、デメリットの両方があり、それだけ大量のサインを書いてもらうのは確かに大変かもしれませんが、同時に我々書店はあなたの本をこれだけ売ってみせます!!という作家に向けた責任の表れでもあるのです。だからそれをご存じの宮下さんは書かせてもらえるのはありがたいと答えていたのだと思います。

そして最後は宮下さんがお住まいの福井県へ。

素敵なご自宅で専用の部屋があるものの、結局家族に囲まれた場所で作家活動をされているのだとか。 その書く上で欠かせないのが1つがメモで、2つ目がピアノだそうで、そのピアノが『羊と鋼の森』誕生のきっかけになったそうです。ピアノの調律をしてもうらうときの“このピアノの中にいい羊がいるよ”という言葉がきっかけ。宮下さん曰く、小説とピアノの相性はよく、小説を書くのに煮詰まるとピアノを弾き、リフレッシュしてから小説を筆が進みやすく、新しい気分になれるそうです。そして3つ目に欠かせないのが本棚ですが、ご自身の本は家族は読まない前提で書かれるのだとか。見られると意識してしまうとつい綺麗にまとめてしまうから、子どもには読まないでと言っていると。人の目を意識せず、自分の書きたいものを書きたいように書くのが大事なんでしょうね。これは作家の方以外のクリエイターの多くが、またタレントも同じ気がします。

そして最後に山田くんの消しゴムはんこ。途中で娘さんがお母様のサイン用に王冠と羊の素敵な消しゴムハンコを作っていたのが放送されていたからか、 対抗(w)して同じ羊を、♪とで囲まれた宮下さんの素敵な消しゴムハンコを披露して終了したわけですが、当日の放送で肝心な宮下さんはといえば――――……

 

 

 

 福井県は放送範囲外だったらしく、せっかくの記念すべき放送がリアルタイムで視聴できないという残念な結果に(>_<)

これからも作家さんの住まわれる場所によってはこういうことがあり得るため、この良質な読書バラエティでもある『ゴロウ・デラックス』の全国放送のお願いをさらにしていきたいと思います。

そのためにも皆様、よろしければ公式HPに番組の感想をお願いします⇒『ゴロウ・デラックス』ご意見・ご感想大募集!| TBS