【考える葦】

某男性アイドルグループ全活動期メンバーで、左利きな彼(稲垣吾郎)を愛でる会

『ペインレス』と『ゴロウ・デラックス』

2018年7月5日放送の『ゴロウ・デラックス』第304回目のゲストは、バラエティ番組初出演な天童荒太さん(58歳)ちなみに天童さんは182cmもあるそうな。

1986年のデビュー以降、数々の話題作を世に送り出してきた。問題を抱えた家族を描いた『幻世(まぼろよ)の祈り―家族狩り〈第1部〉 (新潮文庫)』は累計150万部を突破し、虐待された子どもたちを描いた作品『永遠の仔〈1〉再会 (幻冬舎文庫)』は累計200万部を突破。2009年には死者を悼みながら旅をする青年を描いた『悼む人』では直木賞を受賞。人が抱える痛みに寄り添いながら、社会問題をセンセーショナルに描く大ベストセラー作家だ。 

こういった番組に出演されるのは初めてな天童さんに今の気持ちを吾郎さんが確認すれば、「いや、でもあの、ずっと拝見していて、バラエティというよりは、今一番しっかりした教養番組のように思ってますので」と嬉しいコメントを。そんな天童さんをお迎えしての今夜の課題図書は、 

 

ペインレス 上巻

ペインレス 上巻

 
ペインレス 下巻

ペインレス 下巻

 

 

「ペインレス」のテーマ:無痛
メインとなる登場人物は爆弾テロの後遺症で体に痛みを感じなくなった青年・森悟。そしてそんな森悟の体に興味を示す心に痛みを感じない麻酔科医・万浬。
この二人の濃密な関わりを通じ、人間にとって“痛み”とは何なのかを追求していく物語。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 構想23年、テーマは“無痛”

なぜ“痛み”をテーマにしようとしたのかというと、構想自体は22~23年前、社会が自分の痛みに対してすごく敏感である割に、他人の痛みに対しては段々鈍感になる時代の始まりに“痛み”とは一体何なんだろうか? その痛みを通して社会や世界の成り立ちを見るような主人公の物語にしたら、新しい何かが生まれてくるのではないかという発想から来たそうです。

実際、肉体の痛みを感じない方がいるという話を聞いたため、それを軸に話を進めていくうちに、さらに薬も効かないのは心の痛みではないかと思い、その心に痛みを感じない人がいたとしたら、その主人公を通してこの世界の構造はもっと深く、人間という存在一体どういうもので成立しているのかが見えてくるんじゃないかなと、それをどんどん積み重ねていったそうです。

構想から23年もかかったのは、体に痛みを感じない人は実際に存在するため、ある程度作っていくことは出来るものの、心に痛みを感じない人を積み重ねていき、リアリティを持たせるのは難しく、かなりの時間を必要としたそうです。それが23年という膨大な時間になったわけです。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 1番描きたかった“無痛”の2人の性愛シーン

そして今回朗読するのは、天童さんがどうしても書きたかった心に痛みを感じない女医・万浬が研究のためにセックスを通して無痛の体の森悟を診察する場面。

 

ナレーション(外山):下着一つになった彼が、ベッドに仰向けに倒れ込み、両手を組んで頭の下にやる。
森悟(吾郎)「さあ、お好きなように」
万浬(外山)「ものわかりのいい患者さんには、助けられます」
ナレーション(外山):万浬は、彼のからだをまたいで腰の両側に左右それぞれの膝をつき、首の両側に手をついて、彼を見下ろした。
背中から流れ落ちた髪が、彼の鼻先から唇の上で揺れる。
万浬(外山)「これまで病院や研究施設で、無痛となった状態でのセックスについて、調べられました?」
森悟(吾郎)「いや、正直、調べてほしい想いと、そこまでは踏み入らないでほしい想いが半々で、自分からは言い出せなかった。相手も興味はあったろうに、誰も口にする勇気はなかったみたいだ」
万浬(外山)「くすぐったさについては、お聞きしました。性的な快感はどうなんです」
森悟(吾郎)「試してみて」
ナレーション(外山):万浬は、身を屈めて、髪の毛で彼の頬を撫で、さらに下がって、彼の右の乳首に唇をつけた。
指でしたのと同じことを、舌の先でおこなう。
森悟(吾郎)「感じるよ、きみの舌の感触を。柔らかさ、ざらつき、湿り気。気持ちいいよ、確かに……けど、くすぐったさと似た感じで、微妙に深みがない」
ナレーション(外山):万浬は、唇の上下で彼の乳首をはさみ、軽く吸いながら、舌で愛撫する。
森悟(吾郎)「いいんだ、本当に。でも……薄いという気がする。いわば、水面を漂うばかりで、底のほうまで沈んでいかない感覚かな」
ナレーション(外山):万浬は彼の乳首を軽く噛んでみた。
反応はない。
もう少し強く噛む。
森悟(吾郎)「噛んでるね……それはわかるんだ。でも、痛みはない」
ナレーション(外山):左の乳首も、同じように唇ではさみ、吸い、舌で愛撫し、歯を立てて噛む。
森悟(吾郎)「痛くないし、快感は深くまで達しない。けど抱きたい、きみが欲しい」
万浬(外山)「肉体的な快感が薄いのに、わたしが欲しい、という欲望は……女を自分のモノにするという、所有欲や征服欲と結びついた精神的な悦び……あるいは、他者の性器内に射精するという、肉体的かつ本能的な達成感や解放感を求める想いから、発しているのでしょうか」
森悟(吾郎)「この状態で、そんなことまで考える余裕はないよ。これまで会ったなかでも飛び切り美しい、でも飛び切り変わっている女が、裸でおれをまたいで、おれの乳首を吸ってる……興奮しない方がおかしいだろ」
万浬(外山)「目を閉じてください。わたしを見ずに、できるだけからだの感覚に集中してほしいの」
ナレーション(外山):万浬は、腰を下ろしてゆき、自分の裸の股間を彼の下着の盛り上がりに重ねた。
彼のからだにわずかにふれる程度の間合いを保ち、ゆっくりとからだを前に動かし、彼の盛り上がった肉の形を捉えて、盛り上がりの切れ目を感じ取ったところで、また後ろへからだを戻してゆく。
彼の吐息が速くなる。
森悟(吾郎)「……拷問だなぁ」
ナレーション(外山):目を閉じたまま、彼が苦笑気味につぶやく。
万浬は、もう少し互いの肉が押し合う程度に腰を下ろし、彼のしかめる眉、ぴくぴくとふるえるまぶた、舌先で唇をなめる様子を見つめながらからだを前後に動かしつづけた。

ペインレス』より一部抜粋

 

朗読を終えて早々、「最高のところを朗読していただきましたね」と天童さんがコメントすれば、「体の中が熱くなってきました」と吾郎さん。実際には映像不可能な部分なため、朗読という形で聞かせていただけて嬉しかったと天童さん。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 表現者が挑戦すべき「エロス」

上記の朗読より先にはさらに激しい描写もあるそうで、なぜこのシーンを天童さんが書きたかったのかを尋ねれば、表現者にとってエロスというのは一番チャレンジしなければいけない部分だと。人間にとって一番大切な生と死。天道さんは表現者がそこをどう表現するのか、その人なりの独自のエロチシズム死の感覚を描けるかどうかが表現者としての真価が問われる部分だと思ってきたのです。だから自分がエロチシズムに挑戦するとするならば、官能小説と言われるものではなく、世界の誰も書いていない性愛のものにチャレンジがしたかった。そのときに心に痛みを感じないということは、ハートブレイクがないので愛を理解できない。そして肉体に痛みを感じないということは、性にはある種の痛みが裏打ちされている部分が快感にはきっとあるだろうから深みを感じない。その2人の性愛は世界初のエロスの表現になるんじゃないかなと思ったのでそこはすごく挑戦されたかったそうです。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 執筆ルール① 当事者には取材しない

天道さんは自分の執筆スタイルとして決めているルーツに当事者とは合わないそうです。小説は人間を描くわけですからいいことだけを書くわけではなく、登場人物のズルさだったり、時にはセックスを表現するときもあるし、ちょっと悪いことを表現することもあるかもしれない。だから例えば虐待を受けた子を天童さんが取材して、書かれたくないことまで書いてしまったらすごい嫌じゃないかと、協力したのに。

後は1、2度会っただけの相手に本音を語ってくれるのかと。まず本当のことは言わないだろうから、それをわかった気になって書くというのは道を誤ることだとも思うので当事者には合わないと決めているのです。会わないですが、そういう症状を抱えている人たちの文献などですごく勉強して、履歴を作って、その人になりきって登場人物として嘘なくその人物を作り上げていくのです。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 執筆ルール② 登場人物の履歴を徹底的に作る

心の痛みを感じない人を創造するときには産まれたときから、どういう過ごし方をしていくだろうとノートに履歴を作っていく天童さん。自分がその人になって書くという表現のスタイルをしているので、『永遠の仔〈1〉再会 (幻冬舎文庫)』であれば虐待された子になって、『ペインレス』であれば女医・万浬となるので医療用語を知っていないわけがないという状態まで持っていかなければいけないため、例えばピンセットを取ろうとしてそれが入っているペン立てのような道具の名称は普通の医療用語には載っていないので、それをどんどん調べ上げていかなければいけないのです。

※ちなみに、ピンセットが入っているペン立てのようなもの名称は鉗子(セッシ)立てが正解。

そういう細かいところを詰めていくことでリアリティが保たれるのです。読んだ吾郎さんもその細かな描写の凄さを、そして外山さんも病院のスケジュールが細かく決められていることに驚いていましたが、実際に書くまでの下準備にどれほどかかるのかと問うと、今回、番組のためにその創作ノートを披露してくださることに。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 最新作『ペインレス』創作ノート初公開!

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スタッフ一人、一人の年収まで決めて、天童さんとしてはクリニックを経営しているつもりで設定を整えるのです。そうするとクリニックの規模がわかるし、女医の万浬がどんなシステムで働いていて、休める日も全部わかっていくし、そこで働いているスタッフも名前をつけるだけでなく、ある程度の性格も決めていきます。そして実際に決めた万浬の履歴がこちら、

 

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そのあまりの細かさに吾郎さんと外山さんからも驚きの声が。吾郎さんに至っては自分のこともそんなに覚えていないとw 

この履歴を作り上げることで天童さんの中に入れ、その人になりきって書くときには自然と出てくる、そういうところまで自分を追いつめていくそうです。そのおかげもあり、たとえプロット自体を忘れたとしても、その人として自然と表現が動いていくのです。もしそこに天童という自分自身が登場してしまうと、「こんな風になってくれたらもっと簡単に(物語が)1冊で終わるのになとエゴで物語を歪めてしまうことになるので、決して自分自身は出さないようにします。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 徹底的に登場人物になりきって書く理由

なぜそこまで作り込んでいくスタイルに天童さんがなったのか。それは『永遠の仔〈1〉再会 (幻冬舎文庫)』で虐待を受ける子どもたちを描いたことがきっかけとなりました。虐待をされた人々を外側から描いたら、自分が小説のために利用したようになってしまうから、その人たちになって本当にこの人たちの辛さため息の一つ、一つをすくい上げていくように書かなければ、本当にこの人たちの表現にならないと思い、3年、4年と続けて表現し続けたところ、虐待を受けた方々や虐待ではなくても傷を受けた方々からの「ありがとう」という感謝の言葉がすごく届いたため、そこで天童さんの今の軸足が決まったのです。辛い思いをしている人たちのために表現者になろう。物語をたくさん書いて、読者に喜びを与えてくださる小説の方々はたくさんいるので、それはその方々にお任せしていって、自分は他にはない物語で喜びを感じたり、救いを得たりする方々のために表現する作家でいいじゃないかと。

そのストイックさにもはや感嘆の声しか上がらない吾郎さんと外山さん。最早、作家さんという商売をしているのではなく、アスリートのようだと吾郎さん。だからこそ重いテーマだとか、人の痛みを描けるのかもしれません。圧巻でした。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 山田くんの消しゴムハンコ

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⇒どんなに重いテーマであろうと最後に山田くんの消しゴムハンコを見て、心軽やかにほっこりと終わる。ゴロデラらしくあるためにも、消しゴムハンコは大切だなと改めて思いました。

 

 

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