『アナログ』と『ゴロウ・デラックス』
2017年11月16日放送の『ゴロウ・デラックス』第274回目のゲストは、いつもとはちょっとスタジオの雰囲気が違うほどに凄い方がお見えになっているそうで、今話題の10万部を超えている話題の純愛小説を引っ提げて、小説家としてお越しいただきました。そんなゲストがお見えの今夜の課題図書は、
たけしさんといえばバイオレンス物であったり、ヤクザ映画であったりとイメージがあるため、恋愛小説は意外といえば意外ですが、吾郎さんも外山さんも好きだと。
というわけで今夜のゲストはビートたけしさん(70歳)
ビートたけしさんといえば、明石家さんまさん、タモリさんとともに長年お笑い界のBIG3と称され、不動の芸能界トップに座り続ける男。さらには北野武の名で1997年にはヴェネツィア国際映画祭にて『HANA-BI』が金獅子賞を受賞。
映画監督としても台頭。そんなたけしさんが2017年に新たに挑戦したのが“小説”
今年、ビートたけしさんは突如、自身初の小説『アナログ』を執筆。純愛をテーマにしたこの本は出版されると瞬く間に10万部の売上を記録し、現在も更新し続けている。テレビ・映画の世界で頂点を極めた男は、なぜ小説を書くことにしたのか? そしてなぜ「純愛」をテーマにしたのか?
とはいえ、小説はこれまでに50冊ほどは出版しているたけしさん。ただし、恋愛小説が初めてなら、書いたのも初めてという。実はこれまでの小説はすべて口頭で喋り、ライターさんが書き起こしをする形を取っていたそうです。テープ起こしの原稿を見直して直していたのですが、それだと細かいニュアンスが伝わらず、良いよと走り読みした結果、あまり売上も上がらず。同じお笑い芸人の又吉さんに追い抜かれて頭来ちゃったとw だから今度は「俺が書く」と言ったら、新潮社の編集者さんが「それを言うのは今まで書いてないみたいだから止めてください」とお願いされたそう。
小説を書いたワケは又吉?
『火花』で芥川賞を受賞した又吉さんに、ムカついて読んでみたところ、“芥川賞はこう書かなきゃいけないのか。すげえな、大変だな”と。単なる表現を文学的表現にしなきゃいけないんだなと感じたたけしさんは“じゃあ、自分で書いてみよう”という流れに。又吉さんのは漫才の話だけれど、状況説明が上手く、やはり賞を取るだけあるなとは感じたそうです。ただし、漫才のシーンは自分のほうが面白いとw
なぜ恋愛小説だったのか?
映画がバイオレンス物が多いたけしさん。しかし、今の時代、様々なことによりバイオレンス物は海外では人気がないそうです。さらに「たけしの映画は男と女の物語がない。そういう映画撮らないのか?」と言われたため、『アナログ』的な脚本が存在していたので、ならばこれを小説に書き直そうという流れになった。が、映画の脚本を小説にするのは小説を映画化するのとは逆の行為でとても難しかったと。例えば映画であれば「高速道路を降りて田舎の道をトコトコ汚い車で走っていく」⇒映像で10秒ほどのシーンが、小説では「東松山の高速の降り口を、危うく通りすぎそうになったから急ブレーキを踏んで……」と1Pほどの細かい状況説明が必要となるため、書くにあたってノート4冊ほどがあったたけしさん。
『アナログ』を朗読
主人公はインテリアデザイナーの水島悟。喫茶店でヒロイン、みゆきと出会う最初の場面。二人はタイトルのアナログどおりのある約束を交わします。そのシーンをみゆきを外山さん、水島を吾郎さんで朗読します。
ナレーション(吾郎):すぐ横で女の声がした。
驚いて顔を上げると一人の女性が立っている。
みゆき(外山)「その雑誌、私のものなんです……」
水島(吾郎)「すいません。店に置いてあるものだと思ったので……」
ナレーション(吾郎):悟はあたふたして雑誌を手渡した。
テーブルの上のグラスは店員が忘れたのではなく、彼女が単に席を外していただけと分かったが、それよりも彼女がすごく品がよく素敵な人なので慌ててしまったのだ。
みゆき(外山)「よかったらこの雑誌どうぞ」
ナレーション(吾郎):彼女はニコと笑いながら悟の向かいに座った。
悟はドキドキしている自分に、落ち着け、落ち着けと言い聞かせ、話しかけた。
水島(吾郎)「その雑誌に僕の会社が手掛けた店舗が載っていたので、つい手にしてしまって……すいません」
みゆき(外山)「もしかして、この店のインテリアをなさった会社ですか」
ナレーション(吾郎):彼女が驚いて聞く。
水島(吾郎)「実は僕たちが手掛けた店なんです」
ナレーション(吾郎):悟はさらにドキドキしながら答えた。
みゆき(外山)「私、この店が好きでよく来るんです。外からの雰囲気もいいし、椅子とテーブルの配色も私好みで大好きなんです」
ナレーション(吾郎):と悟に笑顔で言う。
みゆき(外山)「岩本さんって方は才能があるんですね。この雑誌にも岩本さんの作品がよく載っていますね」
ナレーション(吾郎):彼女は雑誌の内容をそのまま信じているようだった。
悟は内心“冗談じゃない! 俺たちがやったのに全部自分の手柄にしてしやがって”と思ったが、
水島(吾郎)「ええ、岩本はセンスがあるから……僕らもいい勉強になります」
ナレーション(吾郎):と心にもないことを口にしてしまう。
水島(吾郎)「こういう仕事は頑固な奴が多くて、なかなかまとまらないのですが、樹上司の岩本がみんなの意見を取り入れてようやくこんな雰囲気になりました」
ナレーション(吾郎):と、岩本がやったのではなく、みんなの意見でこの店ができたことを遠回しに伝えた。彼女は興味深そうに、
みゆき(外山)「この雑誌には岩本さんの感性でできたと書いてありますが、そうでもないんですね」
ナレーション(吾郎):とほほえむ。
水島(吾郎)「岩本には失礼ですが、彼のデザインの方針を変えたのは我々で、彼はこの色使いには反対だったんですよ」
ナレーション(吾郎):悟は思わず怒りに任せて、本当のことを話してしまった。彼女が嬉しそうに笑っているので、悟は調子に乗り、今までの岩本の失敗談をベラベラと喋り出す。
彼女はその失敗談を話すたびに、笑いながら聞いてくれた。
悟はふと我に返り、聞いてみた。
水島(吾郎)「あなたも同じようなお仕事ですか」
みゆき(外山)「いえいえ、私は単なる売り子なんです」
ナレーション(吾郎):売り子という言葉に母を想って親しみを感じたのか、悟はもう彼女を好きになっているような気分だった。
水島(吾郎)「あの……お名前を聞いてもよろしいですか?」
ナレーション(吾郎):と勇気を出して聞いてみる。彼女も名乗っていないことに気づいたように、
みゆき(外山)「すみません。みゆきと言います」
ナレーション(吾郎):と教えてくれた。
水島(吾郎)「みゆきさんですか。今度またお会いしたら声をかけてもよろしいですか?」
ナレーション(吾郎):悟はすぐでも連絡先を聞きたかった。聞けばすんなり教えてくれるのかもしれない。
しかし、なぜだか連絡先を聞いたら、二度と会えなくなるような気がした。
みゆき(外山)「私、休みが木曜日なので、何もなければ夕方ですけど、よくここに来ていますよ」
ナレーション(吾郎):みゆきは笑顔で答えてくれた。
また木曜日にピアノに来て、もう一度みゆきに会う。
連絡先を聞くのはそれからだ。
悟の頭の中は、木曜日の夕方のことで占められていた。
長々と自分の作品をすぐ横で朗読された感想を求められたたけしさんは、“自分の汚物を見せられている”ような気分に陥ってしまったのだとかw
なぜプラトニックな恋愛を書くことにしたのかと問われると、
ビートたけし「若いときは会ったときに裸になってくれるような、口が重くてお尻が軽い人が一番好きなわけだからプラトニックどころではなかった。そういうバカなことばかりをやってきたから、そういうことに興味がなくなってきてしまった。さらには以前は電話もよくしていたけれど、それも興味がなくなってしまった。今、“ネットとかLINEとかを多用すると自分の時間がなくなってしまう。そうすると自分の行動も相手の行動も規制されて、本当にそこに自分の意思が反映されているのか? ”デートなんか昔は、家の電話しかないころには、外出するとき相手に電話連絡出来ないことをイラついたり、“明日どうにか時間作らなきゃ”とかあるじゃん。あまりにも簡単に今日行けなくなった、明日ダメになったということよりも、ちょっと考えることが多くて、面白いなと思って」
さらに『アナログ』からもう一カ所、主人公・悟が最愛の母の死の後、みゆきとともに湘南の海に出かけるシーン。こちらは恋愛観だけでなく、ビートたけしさんの「女性観」が表れている箇所。
ナレーション(吾郎):三十分でピアノの前に車をつけた。
みゆきが早足で、助手席に乗り込む。
心配したクラッチもあまり気にならず、目黒通りから環八を右に曲がりすぐ第三京浜に入った。
茅ヶ崎から鎌倉方面に向かい、途中の路肩で車を停めて海を見ていた。
知らない人が見たら二人のぎくしゃくした感じから恋人同士には見えなかっただろう。
車の故障に困り果て、佇んでいる男女に見えたかもしれない。
水島(吾郎)「すいません。こんな排気ガスとホコリの中で、黒くよどんだ海を見てもつまらないですよね」
ナレーション(吾郎):すると彼女は、じっと海を見ながら、
みゆき(外山)「海が青く光ってなくても、空気が澄んでなくても、道路が車でうるさくても、気にすることないですよ。そのお蔭で光る海の美しさや素晴らしさが分かるんですから」
ナレーション(吾郎):と独り言のようにつぶやいた。
どういう意味なのかはっきりとは分からなかったが、その口調と達観したようなみゆきのつぶやきが、悟の心を揺さぶった。
みゆきは母の死を知っている。
高木がピアノに行って、俺が行けない事情を伝えたのだろう。
痩せ細った母の姿、泣きはらした高木と山下の顔、介護士の木村さん、仏壇の父の遺影、いろいろな人達への思いが浮かんでは消え、悟は声を出して泣いてしまった。
海を見ていたみゆきがそっと、涙で濡れた悟の目元を指で拭った。
悟は夢中でみゆきを抱きしめ、みゆきの胸に顔を埋めいつまでも泣いた。
今みゆきは、母であり菩薩であり天使だった。
ビートたけし「いいですね。母であり、菩薩であり、ヘルス嬢だった」www
たけしさんの女性観とは?
たけしさん曰く、俺はマザコンだったから、この間同窓会をやったところ、先生が「たけしのとこのお母さん、本当にお前可愛がってた。遠足までついて来ちゃったから。運動会から遠足から何でも来た。教室は父ちゃん(ペンキ屋)に言って全部塗り替えたり」したそうな。
特別公開!たけしさんの創作ノート
本日は自分が書いている証拠として持参くださった創作ノート。
紫色のノートが小説の出だしとなり、黄色のノートが最終章となり最後のくだりも書いたものの、その間の部分がまた思いつくと書いて、ノートに差し込む形になるため、他のノートに黄色いノートのページが結構差し込まれているのです。編集がしやすいよう切れるノートを使ったたけしさん。一応、『アナログ』が大爆発して売れたら、このノート1冊を1億円で売る予定なのだとかw こんなことを言ってるから日本では相手にされない。日本で何の賞もくれない(by ビートたけし)
今日はいろんなことを語ってくれたたけしさんに、小説とは関係ありませんが、最後にこんなことを質問。
吾郎:そうなんです。僕、“転機”を迎えてしまったんです。色々ございまして。
外山:たけしさんから何かこう先輩としてアドバイスを。
たけし:う~ん、幸福の科学行ったらどう? ダメ?
でも、結局あらゆる物は転機っていうか、人間だったら、人類だったら死ぬ事なんだけど、それで遺伝子残してまた……延々こう消滅と生まれ変わるのを繰り返すわけで、転機も同じだから、転機はいっぱいあったほうが良いと思うよ。それで転機があるってことは、なくなったわけじゃないから。転機がいろいろあるってことは生きていく、進化している証拠なんで、ありがたいと思っちゃったほうがいいよね。チャンスっていうかね。また転機が来たっていいわけだから。それによって脱皮だと思えばいい。
吾郎:一つ、ひとつステージが変わって。
たけし:新しい、蚕が繭になって、蚕蛾になっていくじゃない。羽化するまでの、飛び立つまでの段階だと思えば。実に今いいとこ来てると思ったほうがいいんじゃないの。
吾郎:ありがとうございます。いやあ、嬉しいなあ。
たけし:成功したらお金貸して。
山田くんの消しゴムハンコ
田中邦衛さんじゃないの?と言いつつ、後で消しゴムハンコをくれるの?と尋ねるたけしさんに山田くん喜びを隠せません。
⇒たけしさんの出演に、それまでの言動にいろいろ思うところがファンとしては多かったとは思いますが、個人的には公の場でたけしさんが吾郎さんがMCの番組にゲスト出演し、さらにはアドバイスの声をかける。そこに意味はあるのだと思います。どんな業界でもそうですが、清濁併せ呑む部分はあるわけで、吾郎さん自身もそれは承知の上で、アドバイスしてくださるたけしさんに感謝していると思います。
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