【考える葦】

某男性アイドルグループ全活動期メンバーで、左利きな彼(稲垣吾郎)を愛でる会

『罪の声』と『ゴロウ・デラックス』

2017年6月8日放送の『ゴロウ・デラックス』第252回目のゲストは、日本中を震撼させたある事件をモチーフにした小説が話題になっている作家の塩田武士さん(38歳)

神戸新聞の記者の傍ら小説を書き続け、2010年『盤上のアルファ (講談社文庫)』が小説現代長編新人賞を受賞し、作家デビュー。2016年には今回の課題図書となる『罪の声』で山田風太郎賞*1を受賞。さらに本屋大賞3位に選出され、現在16万部を突破するなど、今勢いのある作家の一人なのです。

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 山田風太郎賞受賞!

その山田風太郎賞受賞すると賞金は100万円だそうですが、いつの間にか気づいたら奥様に取られていたらしく、ある日、百貨店に連れて行かされて、これは何か買わされるなと思ったら生命保険に入れられた塩田さん。奥様は売れたら絶対に生命保険に入れようと前々から狙っていたそうです。そんな塩田さんの本日の課題図書はといえば、

 

罪の声

罪の声

 

 

昭和最大の未解決事件であるグリコ森永事件を題材に、フィクションで推理する社会派ミステリー。

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 昭和最大の未解決事件、当時のことは?

塩田さん自身は現在38歳ですので、グリコ森永事件時には4歳とあまり事件について詳しく知るわけではないものの、関西在住ということでより事件はよりリアルに、そしてキツネ目の男と母親にお菓子は食べたらあかんと言われてたのは覚えているそうですが、事件は2000年時効を迎えます。

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 昭和最大の未解決事件を題材に選んだわけ

大学3年生の21歳のときにそのグリコ森永事件関連の本を読んでいた塩田さん。その本を読んで始めて、"子供の声を録音したテープ"が利用されていたのを知ります。その声の主が塩田さん自身と同じ年くらいで、同じ関西で生まれ育っている人なんだと感じた瞬間、ひょっとしたらどこかですれ違っている人かもしれないと鳥肌が立ちます。この子の人生はなんだったのだろうと思い立ったのが小説を書こうとしたきっかけ。ただ、この当時に描いた構成を小説にするまでには紆余曲折がありました。

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 『罪の声』を書くまでは苦労の連続

デビューした2010年に最初の担当編集者にこのアイデアを話した塩田さん。"確かに面白い"とは言われたものの、"今の塩田さんの筆力じゃ書けない"とも言われてしまいます。ただ、"このネタは講談社のネタだから絶対他社には言うな"とも口止めされて以降8作品を積み重ね、2015年になってやっと当時の担当編集者さんと今の担当編集者さんに"そろそろやりませんか?"と声がかかります。

しかし21歳のころから書きたい、書きたいと思い続けてきた題材ですから、思い入れが強すぎてどうしても失敗は出来ないという怖さが立ってしまい一度は断ってしまいます。そしてその2ヶ月後、再度、担当編集者さんたちが集い、"僕たちも人事異動があります。今だったら講談社が全面バックアップ出来ます。だから今しかない"とを人事異動という奥の手を使われ、ならばやりますと気合いを入れて、作品へと着手することになります。 

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 衝撃のプロローグを朗読

罪の声』とは、 テーラーを営む曽根俊也と新聞社に勤める阿久津英士の二人を軸に動く物語。まずは衝撃のプロローグを吾郎さんが朗読。ある日、曽根俊也が自宅で父の遺品から黒革のノートとカセットテープを見つるシーンより。

 

吾郎「"何やこれ"
黒革のノートを開いた俊也は驚いて声を上げた。
日に焼けた紙にぎっしり英文が埋まっている。濃いブルーのインクは恐らく万年筆のものだろう。ノートの状態からして、かなり古いものだと分かる。
俊也は代わりにカセットテープを聞くことにした。
"ばーすてーぃ、じょーなんぐーの、べんちの……"
幼いころの自分の声だ。
"きょうとにむかって、いちごうせんを……にきろ、ばーすてーぃ、じょーなんぐーの、べんちの、こしかけの、うら"
テープが切れた。
"何やこれ"
俊也には録音したという記憶が全くなかった。
俊也は考え過ぎかと、もう一度黒革のノートのページをめくっていた。
【ギンガ】【萬堂】
突然目に飛び込んできた言葉に手が止まる。"ギン萬事件"という言葉が浮かんだ。俊也が幼少のころ、関西を中心に起きた有名な事件だ。
俊也の心臓が早鐘を打ち、一瞬の寒気の後にじわっと毛穴が開いたような感覚がした。
額から流れ出る汗にも気づかず、俊也は天を仰いだ。
これは自分の声だ」
※『罪の声』より一部抜粋

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 世間を震撼させた!脅迫に使われた子供の声

実際のグリコ森永事件もそうで、警察が記者に脅迫テープを公開したときに、記者の方々は成人した男性の声だと思い込んでいたのもあり、子供の声が聞こえてビックリしたそうです。

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 『罪の声』軸となる二人の男

 

f:id:kei561208:20170615024934j:plain

 

物語はテーラーを営む曽根俊也が自分の声が【ギン萬事件】に利用されたことに気づき、自分の身内が事件に関与していたのではないのかと疑うところから始まります。そしてもう一人が、

 

f:id:kei561208:20170615231709j:plain

 

全国紙である大日本新聞社の文化部記者・阿久津英士。普段はテレビ局などを担当している記者が社会部の鬼ディスクから過去の未解決事件をやるから手伝えと言われます。そこから取材が始まり、曽根俊也と阿久津英士のそれぞれの視点から物語は展開。

ちなみになぜ曽根俊也をテーラーに仕立てあげたのかといえば、最初は静かな日常だった場がテープを聞くことで非日常に突き落とされる。この落差を表現したくて職人がいいなとテーラーを選んだそうです。

もう一人の阿久津英士については、この作品は勝負作品となるため、自らを投影しようと記者にしたとのこと。ただし、事件記者ではなくあえて文化部の記者にしたのは、事件のことを知らない記者目線から物語を進めていくことで、調べて事件を知っていく読者目線にもなり、自然と記者が知識を得ることによって読者も物語へと強く惹き込まれるよう狙ったのです。

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 主人公を二人にした理由

追う者追われる者という設定をする。ただし、追う者と追われる者という設定だけでは過去と現在だけで話が終わってしまうため、途中から共に追う者へと変化し、未解決事件だからこそ未来を描くようにしよう。そういうコンセプトが塩田さんの頭の中で浮かんだそうです。

 

山田風太郎賞選考委員:京極夏彦氏】
「"罪の声"の素晴らしいところはノンフィクションフィクション境目が分からないところ」と絶賛。

  

f:id:kei561208:20170523013943j:plain その象徴的な部分を朗読

 

外山「あるドキュメンタリー番組の映像。
滋賀県警の捜査員がベンチに座り、指示書を貼り付ける動作をしている。
同番組で新たに発掘された事実。
高速道路上の仕切りは大阪府警だったにもかかわらず、実は滋賀県警が大津サービスエリアや草津パーキングエリアに捜査員を極秘潜入させていたというものだ。
この捜査員は大阪府警の先行班がサービスエリアに到着する前から警戒態勢を取っていて、まず、レストランでキツネ目の男を目撃する。
跡をつけると、キツネ目の男は尾行確認のために、入ったばかりのトレイでUターンしてすぐに戻るというような不審な動きを続けたという。
そして、男は屋外のベンチに座り、ひと目で犯人だと分かるような行動をとる。
捜査員は"一生懸命何かを貼っている状態が確認できた"と言っている。
だが、実際指示書が貼り付けられていたのは、いわゆる"観光案内板"の裏だったのだ。
このズレはなんだ―――――。
キツネ目の男は二人いたのではないか―――――
※『罪の声』より一部抜粋

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain フィクションとノンフィクションの境目

実際に怪しい人物を大阪府警も目撃しているものの、極秘潜入していた滋賀県警の刑事も見ていた。滋賀県警の刑事はキツネ目の男がベンチに何かを貼り付けていたとは言ってはいますが、1984年11月14日の地点ではキツネ目の男の似顔絵自体、警察内でも公表はされていないのです。つまり、知っている可能性はありはするものの、滋賀県警は犯人の似顔絵を知らない可能性がとても高い=あの目撃された犯人は本当にキツネ目の男なのだろうか?という疑問が塩田さんの中に浮かび、なら小説家としての視点で二人いたのでは?という可能性にもたどり着き、物語へと組み込んだのです。

もちろん、実際にキツネ目の男だった可能性はあるし、そうでない可能性もあります。

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 『罪の声』を書くための膨大な資料を徹底収集

ここまで大きな事件になると公開情報も膨大な量になります。そのため、読んでいなかったり、忘れられたりしている資料を全部読み直し、当時の地図を国会図書館でコピーをして、それを元に聴き込みに行ったりと徹底取材。その小説を書くために集めた貴重な資料がこちら↓

 

f:id:kei561208:20170616002816j:plain

 

脅迫状や挑戦状、そして捜査資料などを入手すべく、お願いします、お願いしますと警察の人に懇願し、手に入れた貴重な資料の数々。初めて警察の捜査資料を見た吾郎さんは"怖いね"とコメントを。

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 単行本化されるまでにはまた大きな苦労が

罪の声』は 「小説現代」にて連載された小説で、完結した際に打ち上げをしたのですが、そのときの担当者の様子がおかしく、なんでかなと思いつつ、単行本の発売が楽しみですねと塩田さんが声をかけると、"塩田さん、発売できません。この原稿、大手術が必要です。書き直しです"と非情な言葉がかかります。もちろん、納得できるはずもない塩田さんに、過去を含め歴代の3人の担当者が原稿にえんぴつ*2を入れます、それを見てもらえませんかと。じゃあ、送ってくださいよと塩田さんが言えば、それぞれの担当者によるえんぴつが入った原稿が三部届いたのだとか。

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain エンピツの入ったダメ出し原稿

 

f:id:kei561208:20170616005903j:plain

 

とにかくその指摘は"文章が長すぎるのでこのプロローグは直せ"だとか、"文章のブラッシュアップ"だとか基本的な部分にまで至ります。中には"旅行ガイド/紀行文的な要素は読者はこの本に求めていないと思います。別作品でぜひ"といった面白……冷たいコメントまでw

当初は酷いと思ったものの、担当者からの熱意は感じ取り、最終的には大手術に至った塩田さん。連載原稿が生まれ変わった瞬間にイケると感じたそうです。

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 塩田さんからゴロウさんへお願い

そんな塩田さん、今回吾郎さんにお願いがあって、過去は新聞記者だった塩田さん。当時は上司にプレッシャーをかけられながら働いていたものの、やはり段々と忘れつつあって、それはダメなんじゃないかともう一度厳しく躾けてもらいたく、当時の気持ちを思い出すためにも社会部の鬼ディスクを吾郎さんに完璧な関西弁で朗読していただきたいという無茶ブリをw

吾郎:大丈夫です。プロ✨ですからこっちは

というわけで、鬼ディスクに阿久津がバリバリの関西弁でお説教されるシーンを塩田さんと吾郎さんの掛け合いで朗読することに。

 

吾郎「おまえはイギリスに取材に行ったんか、それとも紅茶を仕入れに行ったんか。さあ、どっち? 取材か紅茶か」
塩田「取材です」
吾郎「ほぉ。じゃあ、これで企画の原稿一本書いてみるか? まあ、この内容やったら、せいぜい五、六行やな。高い取材費かけて、ええ? おまえ一行なんぼの記者やねん。引退前の落合か」
※『罪の声』より一部抜粋

 

吾郎さん、酷いwww

"さすがプロ、全編やり直しです"と塩田さんに言われ、収録から1時間半経ちますが、始めて汗が出てきたという吾郎さん。そして容赦なく"もっとがんばりましょう"マークを出すゴロデラスタッフが大好きです♡

f:id:kei561208:20170616024003p:plain
 

どの辺がダメだったのかを聞こうとする外山さんに、吾郎「どのあたり?全部だよ。わかんないんだもん、関西弁」と駄々っ子になってしまう吾郎さんですが、いずれ関西弁のオファーが来たとき大変だ気づく吾郎さん。外山さんもこの作品だって映画化されるかもしれないしといえば、さっきの醜態を見せてしまった以上、絶対オファーは来ないと断じる吾郎さん。一生懸命取り繕い、なんとか修正しようとするものの半笑いを堪えきれない外山なのでした。いやあ、吾郎さんと外山さんの関係いいなあ。そして、そこに関西人らしくツッコミを入れる塩田さんも。

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 作家と二足のわらじを履いていた記者時代

当時の新聞記者は兼業禁止のため、皆には内緒で作家として活動していた塩田さん。しかし賞を受賞し、文化部部長に報告し、さらに編集局長に事情説明に行くことになりました。ただ兼業禁止な以上、どちらかを選ばざるを得ないため、編集局長の元へ行く際は胸ポケットに辞表を入れ、記者を辞めるつもりでした。ですが、理解ある編集局長だったので両方頑張れと言っていただけてホッと安堵したものの、編集局長の元を立ちさったエレベーターのところで文化部部長より"塩田、受賞記事、自分で書いて"と言われてしまった塩田さん。"自分の受賞記事を自分で書くんですか?"と尋ねれば、"そうや、おまえが一番詳しいからや"と言われ、わからないところは講談社に電話して、自分で自分の受賞した内容を書いた記事がこちら↓

 

f:id:kei561208:20170616025649j:plain

  

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 山田くんの消しゴムハンコ

そして恒例の消しゴムハンコはやや髪の毛が長いバージョンの塩田さん。

 

f:id:kei561208:20170616025859j:plain

 

今回は本格的なTV出演は初めてではありましたが、関西人で高校生時代には漫才コンビを組んでいただけあり、話術に長け、和気あいあいとした雰囲気で貴重な話を、何よりも貴重な資料も見せていただけた回でした。ちなみに放送前と放送後にFacebookで『ゴロウ・デラックス』出演について告知されている文章が素敵でしたので、合わせてこちらに紹介しておきます。

 

www.facebook.com

www.facebook.com

そして恒例、『Book Bang』さんによる『ゴロウ・デラックス』塩田武士さん出演回の記事がこちら↓

 

www.bookbang.jp

というわけで、公式HPにも番組の感想をお願いします⇒『ゴロウ・デラックス』ご意見・ご感想大募集!| TBS

 

 

*1:山田氏の独創的な作品群とその作家としての姿勢への敬意に、有望な作家作品を発掘顕彰するために創設されたのが本賞。ジャンル問わず、対象期間中に発表され、もっとも面白いと評価された作品に贈られる

*2:赤入れ・今回は校正というよりは校閲の役割に近いかも