【考える葦】

某男性アイドルグループ全活動期メンバーで、左利きな彼(稲垣吾郎)を愛でる会

番組恒例芥川賞・直木賞受賞者と『ゴロウ・デラックス』《後編》

2019年2月21日放送の『ゴロウ・デラックス』第333回目のゲストは、先週に引き続き、第160回芥川賞直木賞受賞者となった「ニムロッド」で芥川賞受賞作家の上田岳弘さん(39歳)と「1R1分34秒」で同じく芥川賞を受賞された町屋良平さん(36歳)、そして「宝島」で直木賞受賞作家の真藤順丈さん(42歳)

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 受賞後、嬉しかったことは?

町屋さん f:id:kei561208:20180621011801p:plain 小説家も小説だけでやっていくのは厳しい現状があり、周りの人も表立って“頑張って”と言い切れない。それが“頑張って”、“おめでとう”とはっきり周りの人も喜んでくれるのは芥川賞受賞ならでは。

上田さん f:id:kei561208:20180621012743p:plain 初めて地元の高校に横断幕が出た。

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真藤さん f:id:kei561208:20180621012743p:plain 編集者が文学賞受賞を喜んでくれる。これまで賞もお声がかからず、重版もかからずという状態がデビューしてから僕は長かった。それでもずっと併走してくれていた編集者の方々が本当に喜んでくれた。それが一番良かった。

直木賞受賞までの道のりは長かった」という真藤さん。しかし、実は2008年にホラー、SF、エンタメ、ライトノベルなど様々なジャンルの作品を投稿し、いきなり4つの文学賞に入賞してデビューを果たしたすごい経歴の持ち主なのです。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 新人賞4冠を達成!異例の作家デビュー 

地図男』で第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞(1本目)
庵堂三兄弟の聖職で第15回日本ホラー小説大賞大賞受賞(2本目)
東京ヴァンパイア・ファイナンス』で第15回電撃小説大賞銀賞受賞(3本目)
RANKで第3回ポプラ社小説大賞特別賞受賞(4本目)

 

ちなみに純文学の『群像』にも投稿をされたこともあるのだとか。
すべて同じ年に書き上げたそうなのですが、 1作に1ヶ月。「12ヶ月で12作出そう」と決めて書いたところ、途中で4作品が受賞したため、編集者さんから“もう書かなくていいですよ”と言われたそうです(賞の横にある本数は書き上げた順番)
ですが、それまでは一次選考にも残らなかったらしく、これを書き上げようとしてようやく最終選考に残り始めたのだとか。
というわけで、今回の課題図書は、 

第160回直木賞受賞 宝島

第160回直木賞受賞 宝島

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皆さんは沖縄といわれますとどんなイメージを浮かべますか?
バカンスでいくような楽園? いつも歌って踊ってのウチナーンチュ?
誰もがキレイな海や陽気な人々を想像すると思いますが、今から70年ほど前。沖縄はアメリの統治下にありました。そこでは住民との衝突も絶えなかったと言います。その状況はつい50年ほど前、1972年5月、時の首相・佐藤栄作の手によって沖縄返還が実現するまで続いていたそうです。 

【宝島】
宝島の主人公たちはこの時代に実現した“戦果アギヤー”と呼ばれる盗賊集団。米軍基地から食料や衣類、薬などを盗み出していた沖縄本土の住民たちなのです。

 

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直木賞選考員・林真理子さん〉
「平成最後の直木賞にふさわしいとても素晴らしい作品を選ぶことができたと思っております。やっぱりですね、沖縄への愛をものすごく感じまして、よく東京生まれ、東京育ちの方がこれだけ沖縄のことを調べて、沖縄の人のメンタリティーを身につけて、この方言も風俗も、路地のおばちゃんのちょっとした仕草や声も、よくこれだけリアリティーを持って書けたなと思って、私は感嘆しました」

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 実は東京出身の真藤さん、なぜ沖縄を題材に?

沖縄には親戚もいないし、ルーツもない。でも逆に沖縄の外にいる人間が書くことで出てくる意味とか、沖縄の中の人たちには書けない切り口であるとか、普遍性の取り出し方もあると思うのでと真藤さん。『宝島』の構想から完成まで7年かかったと真藤さん。沖縄の歴史を書くことが想像以上のプレッシャーとなり、2年間、自分の覚悟が固まり切れていなかった期間は書けなかったそうです。 
この物語で描かれている学校に飛行機が墜落したり、毒ガスのことはほぼ全部史実なのです。実際に起きた事件をベースに物語を構成し、戦後の沖縄を実態を描いた『宝島』
 

【1970年 コザ騒動】
12月20日未明、アメリカ施政権下の沖縄のコザ市で発生したアメリカ軍車両および施設に対する焼き討ち事件である。直接の契機はアメリカ軍人が沖縄人をひいた交通事故だが、背景に米施政下での圧制、人権侵害に対する沖縄人の不満があった。コザ騒動、コザ事件、コザ騒乱とも称される。
【1971年 レッドハット作戦】
沖縄本島アメリカ軍基地に毒ガスが貯蔵されていることが明るみに出たのをきっかけに、これを島外に移送するため1971年に実施されたアメリカ軍の一連の作業である。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 真藤流取材、大切にしているのはフィールドワーク!

思わず芥川賞受賞したお二方も感心するぐらいの情報量については、資料であたりをつけてからフィールドワークするという感じで、現地に行って図書館に行ったり、あたりをつけておいた新聞の縮刷版を見たり、お酒の場で現地の人とお話をしたりしていたそうで。酒場の話はちょっと眉唾ものっぽいなと思ったものでも、後から調べてみてら本当にそういうスパイ組織があったんだと後から知ったこともあったそうです。ちなみに“戦果アギヤー”は元々実在していた組織ですが、物語に出てくる“アギヤー狩り*1は真藤さんが作られた架空の窃盗団だそうです。そういう史実の合間に架空の存在が出てくるのが絶妙だと上田さん。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 大事にしているのはプロット

実は真藤さんは町屋さんや上田さんのように書きながらお話を作っていくことが出来ないタイプ。そこは「エンタメ」「純文学」の違いが大きいのでしょうが、なので真藤さんはほぼほぼプロットを作ることのほうが多いそうです。文藝小説の直木賞サイドは。それに対し、純文学は言葉のドライブ感で引っ張っていくのは最近の主流な気がすると上田さん。それに対し真藤さんは、最近はその境目はあまりなくなっているのかもしれないと感じているそうです。今はエンタメ側にいる真藤さんですが、かつては純文学も書かれていたのもあってか、お二人の作品を読むと文体が影響されてしまうのだとか。文章の力でいえば、やはり純文学は強いからと。

 

【町屋さんの"宝島"の感想】 
町屋「この長い物語をしっかり書いている中で面白いなと思って注目したのは、結構こういう長い物語を書くと文章の量も長くなってくるんで、風景の描写で文章に緩みが出たりとかってことが割としょうがなかったりするときがあるんですけど、“宝島”に関してはむしろ緊迫した場面に行くにつれて本当に沖縄の土地感の描写が定型に収まらない文章でしっかりしていて、そこでグッと風景が出てくることで引き締まって、土地の感じってのが立ち上がってきて、緊迫したシーンになるのがすごい好きなんですけど」

 

そして物語の舞台となっている沖縄の人の反応はといえば、直木賞受賞するまで沖縄の話とは気づいていなかったらしく、今は受賞が追い風となって、多くの人が外の人が沖縄のことを書いていると手を伸ばしてくださっているそうです。

米軍から物資を奪う『戦果アギヤー』物語の主要人物はオンちゃん、グスク、レイ。そんな彼らが1952年の夏に挑んだのは、極東最大の軍事基地「キャンプ・カデナへの侵入だった。物資のもちい出しには成功するが、米軍に見つかってしまい、生死をかけた逃走劇が始まる。その物語が大きく動き出す部分を吾郎さんと外山さんで朗読。

 

吾郎「あがあっ」
外山:そこでオンちゃんがうなった。
撃たれた、オンちゃんが撃たれた!
立ち上がって邦楽を確かめていたところで、飛んできた銃弾がその肩口をかすめた。
オンちゃんは荷台にくずおれる。
ちゅいん、と車が火花を散らした。
ごっこは終わっていない。
ピックアップは滑走路の緩衝ブロックに突っこむ。
腰や首を衝撃がつらぬいて、基地の風景がおびただしい断片になって砕け散る。
戦果アギヤーたちは荷台から放りだされた。
吾郎「グスク、まだ踏ん張れそうね?」
外山:肩の重曹で血だらけになり、走る車から投げだされ、ぼろぼろになりながらもオンちゃんは立ち上がって、声をかけてきた。
その不屈ぶりはどこから来るのか、それはコザの神秘だった。驚異の源だった。
魂ごと引き揚げるようなその声が、グスクの両足に活力をよみがえらせる。
大の字でのびていたレイも、兄に支えられながらその身をもたげた。
吾郎「ちくしょう、まだまだよ。こんなところで死にたかないさ」
外山:本音を隠さないオンちゃんに、おれも、おれもやさ、とグスクもレイも声をそろえた。
数方向からライトを照らされて、戦果アギヤーたちは散りぢりに逃げだした。
木々が縫い目のように点々と生えている一帯を移動するうちに眩暈が強くなり、耳鳴りまでひどくなって、だれがついてきていて、どこをどう走っているのかも見当がつかなくなっていた。
そうこうするうちにグスクとレイは、はたと気がつかされた。
オンちゃんの声がしない。
親友の、兄の姿がどこにも見当たらない。
ついさっきまですぐそばを走っていたのに。
夜陰や木立を渡りつぐうちに、オンちゃんとも他の仲間ともはぐれて、グスクとレイはふたりきりになっていた。
『宝島』より一部抜粋

 

このオンちゃんという存在がすごいという外山さんのコメントに対し、戦後の日本は英雄を探すような時代だったんじゃないかなと思う真藤さん。スクラップアンドビルドで敗戦から立ち上がっていく中、英雄像を追いかけていく。それは戦時中の英雄の面影を追うのか、それとも新しい英雄の姿を追いかけていくのかといった時代だったと思うので、“英雄の不在”を物語の一本の軸にしたかったと真藤さん。

ちなみにそんな真藤さんに執筆部屋はというと、机のPCを置き、その周囲にあるスペースには山盛りの本が積み重なり、思わず“書きにくっ!!”と声が上がるほどw 自分が読んでいる本、書いている小説の資料含めて膨大な量です。真藤さんはご自宅の近くに小さな仕事場を持っているのですが、書く時間帯は夜型のときもあれば、朝型のときもあってまちまちなのだとか。

そして今回はお三方の本棚も特別に写真に撮って披露してくださったのですが、町屋さんの本棚は整理フェチの吾郎さんが思わず整理したくてしょうがないと思うほどの状態で、上田さんはきちんと整理整頓されて、大好きなドストエフスキー夏目漱石シェイクスピアの文庫本が並び、でもその中に“タッチ”が入っていたりと面白いラインナップ(町屋:僕はH2派です)最後の真藤さんもこれまた黒い本棚に整理整頓されていますが、“映画が主食で、血と肉になっている”と大好きで滋養となる映画のDVDも。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 今後について

町屋さん f:id:kei561208:20180621011801p:plain また新しい何かを探さないといけないと思っているんですけれど、さっきの本棚みたいに心の中がまだ整理できてない状況で、少し落ち着いたら自分の新たなものっていうのが見つかったらしっかりと書いていきたいと思ってます。

真藤さん f:id:kei561208:20180621011801p:plain 色んなジャンルのものを書いてきたので、やっぱりホラーとか、SFとか、色んなジャンルのもので代表作を出していきたい。

町屋さん f:id:kei561208:20180621011801p:plain 一昨年から去年に連載していたものが700枚ぐらいだったんですね。それの単行本を今作ってるので、まずはそれですね。“ニムロッド”と並行して書いていたので、モチーフもリンクしてるので、“ニムロッド”を読んだ方はぜひこちらも読んでもらいたい。「キュー」という作品、ちょっと宣伝を…(w)

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 山田くんの消しゴムハンコ

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f:id:kei561208:20180622175426p:plain Book Bang

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*1:戦果アギヤーが奪った物資を横取りする人たち