【考える葦】

某男性アイドルグループ全活動期メンバーで、左利きな彼(稲垣吾郎)を愛でる会

番組恒例芥川賞・直木賞受賞者と『ゴロウ・デラックス』《前編》

2019年2月14日放送の『ゴロウ・デラックス』第332回目のゲストは、平成最後の第160回芥川賞直木賞受賞者となった「ニムロッド」で芥川賞受賞作家の上田岳弘さん(39歳)と「1R1分34秒」で同じく芥川賞を受賞された町屋良平さん(36歳)、そして「宝島」で直木賞受賞作家の真藤順丈さん(42歳)

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 受賞発表の日は何してた?

町屋さん f:id:kei561208:20180621012743p:plain 新潮社の近くにあるカジュアルなバーみたいなところ静かに待っていた(ただし、店長が「ドラゴンボールZ」が好きという個性的なお店で、"CHA-LA HEAD-CHA-LA"の歌詞にある"へっちゃら"と言っていたので助けられた)

上田さん f:id:kei561208:20180621011801p:plain 選考を待つのが嫌いというか、辛いので歌舞伎を観ていた。すでに芥川賞ノミネートは3回目で、1、2回目は待ち会をちゃんとやったものの、3回目になると"待ってられないな"と。

真藤さん f:id:kei561208:20180621011801p:plain 初回なので2~30人集まって待ち会をしていた。

ちなみに今回、芥川賞を受賞した上田さんと町屋さんにはある共通点が。実は上田さんはIT企業の役員×作家、そして町屋さんは営業で外回りをする会社員×作家と平日は会社員として働く兼業作家さんなのです。

元々大学卒業してから作家志望で投稿をしていた上田さん。働こうかなと思っていたタイミングで今の会社の社長に誘われて、創業期にかかわったので役員として平行して働いているそうです。上田さんは役員なので多少の融通は利きますが、町屋さんは普通の営業マンなので本日は有給を使って番組収録に参加されているのだとか。

というわけで今回の課題図書のまず一つ目が、 

第160回芥川賞受賞 1R1分34秒

第160回芥川賞受賞 1R1分34秒

 

 

【1R1分34秒】 
主人公は初戦以降、1勝2敗1引き分けと負けが続いているプロボクサーの「ぼく」
長年連れ添ったトレーナーにも見捨てられ、自分の人生に嫌気がさしていた。しかし変わり者のトレーナー、ウメキチとの出会いをきっかけに、「ぼく」が成長していく姿を描いた青春小説
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芥川賞選考員・奥泉光さん〉
「トレーニングの模様を徹底して描き込んでいくというですね、その筆の言ってみれば迫力というものが一番評価された。実際のボクサーがこれを読んだときにですね、"こんなの全く嘘だ!"と仮に言われたとしても、"この作家に騙されてもいい"というふうに思わせるだけの〈言葉の力〉というものがこの作品にはあったと思います」

 

そんな選考委員も絶賛する臨場感溢れるボクシングの試合シーンを吾郎さんが朗読。

 

吾郎:デビュー戦も二戦目もはやいラウンドで倒した倒されだった青志くんの戦歴のせいでぼくに不充分だったのは、距離感覚のイメージトレーニングだった。
ほんの数センチの差とはいえ、おそらく前二人の青志くんの対戦相手よりリーチの短い自分は、らくな距離に身をおいていると自分以上に相手のスイートスポットに入ってしまい、ちょうどジャブの力のこもる場所に目が位置してしまう。
肘から先で司会を遮られるような効果のジャブをもらうということは、プロとしてあってはならない距離感覚で闘っている。
一ラウンドはまずその対応であたまがさーっと熱くなってしまい、結果的にわるくはない作戦ではあったのだがひたすら距離を潰してガチャガチャ打ち合った。
こんなボクシングばかりしていると、六回戦にあがったあとに未来はない。

『1R1分34秒』より一部抜粋

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 10年以上ボクシング経験者 
読み終えて熱のこもった声で朗読していただくことで、書いたとき以上に頭の中に試合の光景が浮かんできて不思議な気持ちになったと町屋さん。実際に町屋さんは20代中盤からジムに通い始め、2年前ぐらいまでやっていたそうです。一時期はプロのライセンスを取得しようと思ったそうです。
その経験が選考委員も称賛する徹底した書き方になったのかと問う吾郎さんに対し、小説というのは現実から逸脱した部分に手を伸ばさないといけない時が来るので、ボクシングという足場があったから手を伸ばしやすい部分はあったと町屋さん。

今回、お互いの作品を読んできた3人に町屋さんの感想を聞くと、

 

【上田さんの"1R1分34秒"の感想】 
上田「初っ端のところすごい好きでした。読んでて調べに調べて友だちになっちゃうという。ボクシング小説として読み始めるわけじゃないですか。初っ端からいきなり調べ尽くして親友になってしまうという最初、脱臼する感じ。それが何か上手いなあ」
吾郎「そっかそっかそっか。今までのね、スポコンものみたいのにね、あり得ないですよね。最後に仲良くなるのをとっておかないといけないですもんね」
町屋「今、気づきました。通常は戦った後にね、ハグしたり」
吾郎「ちょと違う小説が始まるぞって感じは確かにね、上田さん仰るとおりあった」

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 町屋流執筆のこだわり

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実は今回、それぞれの執筆部屋も写真に撮っていただいたのですが、町屋さんの執筆部屋はお風呂という。最近では味を占めて原稿のチェックもお風呂場で行うのだとか。執筆部屋などで行うと"いざ、書くぞ!"と身構えてしまうので、日常の延長線上でそのまま書けるお風呂場が良いのだそうで。だから書くのもスマートフォンで、「1R1分34秒」もスマホで書き上げたのだとか。
ちなみに一気に書き上げ、初稿は2週間はかからず。最初の勢いでしっかり書かれたそうです。

続いての課題図書は同じく芥川賞を受賞した上田さんの 

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

 

 

【ニムロッド】 
主人公はIT企業に勤める中本哲史。
ある日、社長命令で仮想通貨"ビットコイン"の取引データを記録する部署に異動する。その業務をこなす傍ら、心に傷を抱えたキャリアウーマンの恋人、田久保紀子と鬱病を抱え、小説家の夢を諦めた元同僚の荷室 仁(通称:ニムロッド)ら二人との交流を通じ、統一化された社会に翻弄される悲哀に満ちた姿を描く作品。
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〈吾郎さんコメント〉
3人の距離感がいいんだよね。切ないんだよね、"ニムロッド"と"ダメな飛行機"と。何か切ない良いんだよね。

 

作品を書いたきっかけは2017年にビットコイン1ビットコイン≒240万円と高騰したときがあり、興味があって調べていくと「提唱者」といってビットコインを作ろうと言ったナカモト・サトシという日本名の人がおり、日本人が提唱者なのかとさらに調べていくと実は誰が作ったのかもわからず興味があったと。さらにもう一つの大きなモチーフとして「ダメな飛行機コレクション」があって、

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その時代の最先端技術を用いて開発されたものの、ろくに飛びもせず、計画がとん挫した飛行機を紹介しているインターネット上に実在するまとめサイトの一つ。その中で紹介されていたある一つの飛行機が作品を書くきっかけになったんだそうで、

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第二次世界大戦に所謂特攻機として開発された桜花。提唱者は「大田正一」さんといい、戦後、そのような開発したことを責められ、自殺を試みるものの死にきれず。名前を捨てて生きていくのです。その二つが背中合わせに見えてきた上田さんは、この2つのモチーフで何か書けないかなと思ったのがきっかけ。ただ、どういう作品になっていくのかはわからなかったものの、繋がっていくんじゃないかなという直感で、書きながら探っていく感じだったのだそうです。

その上田さんが受賞した決め手は、

 

芥川賞選考員・奥泉光さん〉
「上田さんの作品についてはですね、大変完成度が高いと。"バベルの塔"の神話的なイメージと"ビットコイン"いくつかの……あるいは"ダメな飛行機"人類が積み重ねてきた上手く使えない飛行機というものを、上手く組み合わせることによって1つの小説世界を編み上げたそのいわば手際ですね。それが今回は高く評価されたんだと思います」

 

その『ニムロッド』で上田さんがこだわった会話シーンを外山さんを朗読。

 

外山:「誰かが採掘を続けなければ、サトシ・ナカモトの資産価値を維持することができない」
名古屋の居酒屋で酒に酔ったニムロッドが焦点の合わない目で言った言葉が蘇る。
「きっとさ、君本人でなくても誰かがビットコインの採掘を続けるよ。
世界中で、無数のコンピューターが君のロジックに則って稼働しているのは何も資産が欲しいからだけじゃない。
社長の言うとおり、一種のシステムサポートなんだ。
あの社長もたまにはまともなことを言うんだな。
コンピューターに電力を送り続け、帳簿を書き続けることで、ビットコインの存在が証明される。
書いているのは単なる取引履歴だけど、実際にはそれで価値が生み出され、日本円やドルにもなる。
つまり、資金となって人や世の中を動かすことができる。
僕は思うんだが、それって小説みたいじゃないか。
僕立がここにこうして、ちゃんと存在することを担保するために我々は言葉の並び替えを続ける。
意識や思考もまた脳を駆け巡る電波信号に過ぎず、通り過ぎてしまえばそれがあったこと自体が夢か幻みたいだ。
世界中にいる無数の名無したちの手が伸びてくるから成り立っている。
その手がなくなってしまえば、君が掘り出した大切な変則Bは君の手元から真っ逆さまに、どこまでも下に落ちていく―――――」

『ニムロッド』より一部抜粋

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 上田さんが長台詞にこだわった理由とは?

すごい長台詞に"長台詞好き?"と問う真藤さんに頷く上田さん。舞台とかはこれぐらい多いと答える吾郎さんに、実は戯曲を読むのが好きで、シェイクスピアをよく読まれるのだとか。すごい言葉がキレイだからそれを小説でやってみたいというのがあると。
ちなみに登場人物のニムロッドは小説家になりたくて、でも諦めた人物だったのですが、上田さんの経験もかなり反映されているらしく、上田さん自身も最終選考に残って落ちたことがあるので、そのときの気持ちはここに込められている部分はあると。それを聞いて町屋さんも、そして真藤さんも共感する部分がw

 

【真藤さんの"ニムロット"の感想】 
真藤「誰も見たことのない、誰も読んだことない世界を模索している感じがあって、それは"エンタメ作家"も他の人が書いていないものを探してくところがあるから、うん。それこそダメな飛行機コレクションとか、こういう組み合わせっていうのはすごく斬新ですね」

 

ちなみにそんな上田さんの執筆部屋はこちら

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シンプルな部屋ですが、こだわりは使うパソコンは何台かあるものの、キーボードはすべて写真のを使っていること。同じキータッチであることが大切真藤:同じジータッチであることは大事だよね)だからスマホで入力するとか考えられないそうです。そして逆にキータッチで入力するのが考えられない町屋さんw パソコンも時に使うものの(お風呂にも持ち込んで)、軽さ重視なのだとか。

上田さんは朝5時30分から7時30分が執筆、7時30分から8時00分が朝食、そして8時00分から9時00分が出勤するときちんとスケジュールが組まれているのですが、それを聞いた同じ兼業作家でもある町屋さんが「朝、規則正しく書いて、会社で過ごすうちに”これちょっと違うかも?"と思うときあるのかなあと」と尋ねれば、実はあまり読み返さないのだと上田さん。ずっと書いていて、例えば200枚ぐらいの作品にしようと思ったら20%ぐらい多めに書くのだそうです。それを削っていくとちょうど200枚になると。まずは書きたい衝動を大切にして、改稿していくタイプなのだそうです。

というわけで今回はここまで、続きは次回。

 

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