『イノサン Rouge』と『ゴロウ・デラックス』
2019年1月17日放送の『ゴロウ・デラックス』第328回目のゲストは人気漫画家の坂本眞一さん(46歳)今回は坂本さんのアトリエでのロケということで、課題図書は現在『グランドジャンプ』連載中の、
イノサン Rouge ルージュ 1 (ヤングジャンプコミックス)
- 作者: 坂本眞一
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2015/10/19
- メディア: コミック
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物語の舞台は18世紀フランス・パリ。フランス革命で国王ルイ16世やマリー・アントワネットを処刑した実在の死刑執行人一族「サンソン家」を描いた作品。吾郎さんも嵌ったというこの作品の魅力の一つが圧倒的な絵の美しさ。
18世紀のフランス建築や衣装など、細部に亘るまで忠実に描写。残酷でグロテスク処刑シーンですら独自の表現で美しく描かれている。坂本さんの画力は世界でも認められ、2016年では世界中の芸術的漫画作品を集めたルーヴル美術館特別展『ルーヴルNo.9』でも出展されたほど。
写実的で美しい絵を描く坂本さんですが、驚くことに絵はすべて独学で学んだとか。
子どものころに見た『北斗の拳』に衝撃を受け、漫画を描き始めた坂本さん。
投稿作品が賞を受賞し、週刊少年ジャンプに掲載されて18歳で漫画家デビュー。しかし、その後なかなかヒット作に恵まれず、約20年間不遇の時代が。
しかし38歳のときに登山家を描いた『孤高の人で』文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。デビューから20年の時を経て、再び脚光を浴びることに。
そして2013年に『イノサン』、2015年に続編の『イノサン Rouge』を発表。テーマ性のあるストーリーと絵の美しさで男女問わず人気の作品に。
どのように作画している?
アシスタントさんたちが作画している部屋に行けば、当然、皆さんが描いているのはデジタル。PCで実際のシャンデリアを見ながら、それを作画していくアシスタントを見ながら"求められるもの、細かすぎません?"と吾郎さん。
基本的に人物や構成を坂本先生が、そして衣装・背景などはアシスタントが担当。さらにはアシスタントの中でも服飾が得意なスタッフさん、小道具、自然物が得意なとそれぞれの分野にも分かれているのです。
(吾郎:何か機械式時計を作っている職人みたいな)
坂本先生とアシスタントが働くアトリエには壁の至るところに『イノサン』の作品が。そして壁に飾られていたのが、ちばてつや先生が坂本さんに贈った直筆のメッセージ。さらに階段を上がった二階にはたくさんの影響を受けた漫画やリアリティを求めて参考にする書籍などの本が。
そして坂本さんのディスクの周りにも参考にしている様々な資料が。
登場人物の骨格を意識するために外国人の写真を貼ってあったり、骨造を知るための人体模型であったり、
さらには当時の衣装まで再現。実際に下書きに入る前にこの衣装をスタッフに着てポーズを取ってもらうそうです。そのポーズを取るにしても感情だとか、細かい心理を、例えば引いている感じになるのであれば、もっと足を大きく開くんじゃないかとか身体の先にまでをお互いに話し合いながら一つの構図を作っていくのです。
そうやって構図を決めたらまずは青い線で下書き、下書きが出来たら様々な太さのペンツールでペンを入れ、納得いくまで何度も描き直し、時には拡大して、細部にもこだわって作品を仕上げていきます。ちなみにその坂本先生が描く様子がアプリで楽しむことが出来るようになっています。
そして9巻表紙に描かれている生首のイラストを見ながら"グロテスクなものにしかない美しさもあるしね"と吾郎さん。そこで嫌な気持ちにさせずに、美しさだけを体感させてくれるのが坂本さんの絵にはあるのです。
そのアプリでは完成に至る過程で、まず何を描こうとしているのか、迷っているところから始まります。書き手の不安とか迷いとか、そういったものの先に完成形があるのだと知ってもらいたいと坂本さん。そこは主人公の苦悩と作者の苦悩が互いにリンクしてくるように読んでいると吾郎さんはいい、また漫画の序文とかもすごく好きで読むと。
孤独を恐れるな。
ただ一人、信念の旗を掲げて、暗闇を進むのだ。
苦しみや哀しさをたった一人で味わいつくした先に、盟友の掲げる旗が見えてくるだろう。
それは傷つき綻んだ希望の旗だ。
そんな『イノサン』の世界観や美しい絵が大好きな吾郎さんに、坂本さんから吾郎さんが「イノサン」の登場人物ならというテーマの元、アナログの一発描きによるサプライズプレゼントをしてくださった坂本さん。
お忙しいために休日もほとんどない坂本さん。それでも仕事の合間を見つけては描いてと2日間、トータル5時間かけて完成です。嬉しそうに、両足をバタバタさせて興奮して嬉しそうな吾郎さん。
そんな『イノサン Rouge』の魅力といえば、テーマ性のあるストーリーもその一つ。
なぜ「死刑執行人」をテーマに作品を描こうと思ったのか?
当時のフランスは職業選択の自由が全くなく、世間から忌み嫌われていた職業、それを生まれた瞬間から背負わねばならない絶望を抱く男を見つけたときに、次の作品は彼しかいないと思った坂本さん。死刑執行人といって思いつくのは、熊のような大男であったり、すごく冷酷無比な人間だと思われがちなところを、固定観念や先入観をぶち壊すことをしたくてシャルル-アンリ・サンソン*1というキャラクターを泣き虫で、臆病で、優しい心を持った人物像として描くことで死刑執行人として思いつく先入観を壊せるのではないかと。そんな兄シャルルと対照的に描かれているのが、もう一人の主人公である妹のマリー。
マリーの人物像を語る上で欠かせないのが、革命の志士・ジャックというキャラクターが出てくるのですが、彼が描く未来とマリーの思い描く未来のぶつかり合うシーン。マリーというキャラクターがとてもダイレクトに描かれているシーンを朗読。
それが俺たち平民の運命なんだ……!!!」
マリー(外山)「ならばお前の言う"革命"は何をもたらす!? 地ベタを這いずる平民の思い描く夢とは何だ!?」
ジャック(吾郎)「国王の地がこの腐敗したフランスの地に降り注ぎ、やがて新たな時代を芽吹かせることが俺達の夢だ―――――――!!!! 新しい時代がどんな姿になるのか、俺にはわからねぇが、これだけは言える―――――…
街には食べ物が溢れ、子供たちの腹はいつも満たされ、笑顔で学び舎に向かう―――――…恋人たちは身分に関わらず愛を語り――――…男たちは生まれに関係なく職業を選び――――――…家族を守る――――――!!!!」
マリー(外山)「最悪。お前の思い描く未来には男しかいねぇのか?
たらふく食って、ヤリたい女ヤッて、好きな仕事に就いて、さぞかし男には都合いい世の中だな。マリーの描く未来は、男も女も関係ねぇ。主役は自分だ!!!」
『イノサン Rouge』より一部抜粋
とにかくフランス革命では身分階級があったりだとか、色んな差別があったのですが、ならば果たして男女が同等に今、世の中立っていられるのかというとそうではないような気がして、そこを扱うことで当時の差別だとか、虐げられた感情というのを伝えることが出来るんじゃないかと思い、 ジェンダーの部分をマリーに託してみた坂本さん。
男も辛いよね。男に生まれたからには家族を守っていかなきゃいけないという言葉を告げる吾郎さんに、そう、どちらも間違ってはいないんですと坂本さん。こういうときに咄嗟に女性だけでなく、両方の立場も思いやれる言葉が出るのは吾郎さんの強みだと思います。
そんな坂本さんがジェンダーレスを理想とするマリーを主人公とするきっかけは、子どもが生まれたことで妻が女性で、自分が男性だということが浮き彫りになってきたと。例えば保育園の送り迎えを率先としてやっていたのですが、10年前の当時では送り迎えに来るパパはそんなにいなくて、かなり浮いている感じになってしまったのです。そういった固定観念、先入観をぶち壊してもらいたいと思って生まれたのがマリーだったのです。
マリーを描くきっかけとなった娘さんがスゴい
その送り迎えをしていた娘さんも中学3年生となり、何とレスリングのアジア選手権で優勝するという将来、オリンピック出場が期待される逸材なのです。しかも息子さんたちもレスリングの日本チャンピオンという素晴らしさ。やはり漫画を描いているため、休日にどこかへ出かけることも出来ず、かといって家でじっとしているのもなんだからとしている間に、子どもたちが嵌ってしまったのがレスリングだったのです。ちなみにお子さんたちには自分の漫画は読んじゃダメと読ませてはいないそうです(刺激強いからねw)
『イノサン Rouge』第9巻の見どころは?
ルイ16世の死刑執行が行われることで民衆が何を感じて、どう動くのか。そこの様を感じていただけたらということでした。
山田くんの消しゴムハンコ
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*1:ルイ16世やマリー・アントワネットを処刑。フランス革命児に実在した人物