【考える葦】

某男性アイドルグループ全活動期メンバーで、左利きな彼(稲垣吾郎)を愛でる会

『野の春 - 流転の海 第九部 -』と『ゴロウ・デラックス』

2018年11月1日放送の『ゴロウ・デラックス』第319回目のゲストは、長年、芥川賞の選考委員を務めていらっしゃる文学界の重鎮で、自伝的小説が37年かけて完結されたばかりの宮本 輝さん(71歳)

滅多にTVに出演されない宮本さんに緊張気味の吾郎さんと外山さん。 宮本さんは1977年に『泥の河』で太宰治を受賞しデビュー後、2作目となる『蛍川』で芥川賞を受賞。現在は芥川賞選考委員を現役最長の23年務めているという人なのです。

 

蛍川・泥の河 (新潮文庫)

蛍川・泥の河 (新潮文庫)

 

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 23年務める芥川賞選考委員

実は『ゴロウ・デラックス』芥川賞選考委員がゲストとして出演くださるのは宮本さんが初めて。実際にどんな雰囲気なのかと尋ねる吾郎さんに対し、「緊張しますね。あの~、やっぱり人の運命を決めますから。選考委員というのは才能を見つける仕事なので、この1作がいくら良くても、この人はもう次から書けないだろうってのが何かわかる人もいるんですよ。この人は今はそんなに大した作品じゃないけど、年輪を経ていくうちにいい作家になるんじゃないかとかね。そういう新しい作家を見つける仕事ですから」もちろん、その年の一番の作品を見つけるのですが、宮本さんの場合はその先も考えた上で選考されているそうです。だから1回読んでたいしたことないなと思う作品も、2回目読むと"あれ、こんないいところがあるんだな"というのが出てくるために、最低でも2回は読まれるのだとか。

 

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というわけで今夜の課題図書は37年の時を経て完結した『流転の海』シリーズ全九。 

【あらすじ】
主人公・松坂熊吾の50歳から71歳までの波乱の生涯を描いた作品。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 34歳から書き始め…37年間の思い

主人公より年下だった34歳から書き始め、同い年になって完結した『流転の海』シリーズ。実は第5巻目ぐらいから「世の中には"未完の大作"があるなあ」と。それは残念ながら亡くなられたり、病気になったりと小説を書けなくなる要素はいっぱいあって、やはり小説というのは健康でなければ書けないと。第7部の『満月の道』ぐらいになってくると宮本さんも60歳になってくるため、あちらこちらにガタが来てしまい、ふと「これは最後まで書き終えられるのかな」と不安になったすることもあったそうです。ただ、そういう状態のときに限って、"私は78歳で「流転の海」第一部から読んできました。宮本さんもお年を召されている。私が生きている間にこの完結編を読むことは出来るのでしょうか?"といった読者からお手紙が届くのだとか。だからかはわかりませんが、夜中に目が覚めると「今すぐにでも続きを書かないと、何かあったら大変だ」とそういう状況に陥ったこともあるそうです。ただ最後の五行は決まっていたそうで、そこへお話を持っていくと。
物語のメインである松坂熊吾とその妻、房江。そして一人息子の伸仁。実はこの三人、宮本さんのご両親と宮本さんご自身がモデルになっているんだそう。 というわけで今回は『流転の海』を徹底解剖すべく、全九部の内容を一気に紹介します。その前に、主人公の松坂熊吾の人柄がわかる部分を第一部から朗読します。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 猛然な男、モデルは実の父

【場面】
熊吾の元部下・海老原が独立し、会社の新築披露パーティに熊吾が招待されたときのこと。

 

外山「海老原は熊吾が怖かった。
怒らせたら伊予の突き合い牛よりまだ恐ろしい。
海老原は亜細亜商会を発展させて、三ノ宮駅の裏にあった五坪の事務所から、このレンガ造りのビルに移った際、取引き相手や、世話になった人間たちを招待してビルの新築披露宴をもった。
そのとき、周囲の人間の目を意識しながら、思わず、熊吾に
「松坂さん」
と呼びかけてしまった。
「松坂さんとは俺のことか」
熊吾は言うが早いか、テーブルの上に並べられていたローストビーフを手でつかみ、それを海老原の顔に叩きつけたのである。
それから熊吾は升酒をあおりながら、披露宴が終わって招待客が帰っていくまで、延々と三時間以上も海老原にからみつづけた。
海老原が土下座して謝るまで、熊吾は許さなかった。
うぬぼれるな。
お前なんかまだ小僧だ。
学生服を着て、帰りの旅費も持たず、風呂敷包みひとつで伊予から出て来たことを忘れるな。
海老原はそんな熊吾の形相を見て、実際殺されるのではないかと震えたほどであった。
熊吾の情の深さを知っている海老原は、自分のことを思って言ってくれていると感じながらも、人前で、それも晴れのビル新築祝いの席で恥をかかされた恨みを忘れてはいなかった。
海老原は、恩と仇とのふたつの感情をそれ以来ずっと熊吾に対して抱いているのである」 

『流転の海 第1部』より一部抜粋

 

実際にこのエピソードにあるローストビーフを投げつけた人で、そういう人だったと宮本さん。そんな気性が荒く、豪快な熊吾とその家族は一体、どんな波乱な人生を歩んできたのか。 

時代は戦後の大阪。熊吾が50歳のときに息子、伸仁が誕生するところから物語は始まります。元々営んでいた自動車部品会社を再起しようと奮闘中、とある事件が……。

 

f:id:kei561208:20180621011801p:plain 一部……部下に裏切られ、百万円を失う(現在だと約一億円)

f:id:kei561208:20180621011801p:plain 二部……病弱な妻子のために愛媛へ帰郷。ダンスホールを経営し始める。妻の浮気を疑い暴力を振るう

f:id:kei561208:20180621012743p:plain 三部……大坂に戻り様々な事業を始めるが……歴史的大型台風で大損害

f:id:kei561208:20180621011801p:plain 四部……富山で新事業を始めるものの上手くいかず、大坂に戻り中古車事業を始める。しかし……部下に会社の資金を持ち逃げされる。さらに私生活ではストリップダンサーと不倫

⇒自分は妻の浮気を疑って暴力を振るったのに不倫をする。大体男ってそういう奴が多いとお怒り気味の外山さんでしたが、熊吾のことは嫌いになれないそうで。なぜならすごく人の面倒も見るからと。良くも悪くも明治の男なのです(宮本さん)

f:id:kei561208:20180621012743p:plain 五部……再起をかけ大型駐車場を運営。家族3人、大坂での生活へ。

f:id:kei561208:20180621011801p:plain 六部……再び中古車販売業を始める。熊吾の糖尿病が深刻な状態に。

f:id:kei561208:20180621011801p:plain 七部……板金塗装の事業を始める。しかし……部下の不正経理発覚、大金を失う

⇒何回騙されたらいいのかな(宮本さん)

f:id:kei561208:20180621012743p:plain 八部……熊吾の浮気(前のストリップダンサー)が発覚、房江はアルコール中毒に。さらに……自殺未遂。伸仁は押入れで「あすなろ物語」を読了する。

⇒実はこの出来事がきっかけで、中学生だった宮本さんは小説の世界にのめり込むようになったんだそう。物語の中で伸仁くんが母親のお見舞いに行けなかったのは、自分自身が見舞いに行ったら息を引き取った母親を見るような気がして行けなかったからだと宮本さん。 助かったか、死んだか、その知らせが来るまではこの押入れから出ない。そのときに本でも読もうと思って電気スタンドと一緒に押入れに入ったものの、いまだになぜそんなに小説の世界にのめり込んだのかはわからないそうです。その小説が後少しで読み終わるそのときに、「助かった」と電話が入ったのです。それを聞いたときは助かって良かったという気持ちと、自分を捨てた母親を憎む気持ちに襲われた宮本さん。そして開いていた本を閉じたときに、小説、文学というのは本当に素晴らしいものだなと思ったそうです。こんなに小説って面白いんだと感じたのです。

 

あすなろ物語 (新潮文庫)

あすなろ物語 (新潮文庫)

 

 

 

『流転の海』はついに最終巻の"野の春"へ。熊吾が病気で倒れる前、息子に語った言葉を吾郎さんが朗読。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 息子に語った人生の指針

吾郎お天道さまばっかり追いかけるなよ」
と熊吾は言って、鍋焼きうどんができあがるまで待った。
伸仁が鍋焼きうどんを食べ始めると、熊吾は大根に芥子を塗って口に入れた。
「わしは若いころからお天道さまばっかり追いかけて失敗した。
お天道さまは動いちょるんじゃ。
ここにいま日が当たっちょるけん、ここに坐ろうと思うたら、坐った途端にもうそこは影になっちょる。
慌ててお天道さまの光を追って、いまおったところから動いて、日の光のところへとやっと辿り着いたら、またすぐにそこは影になった。
そんなことばっかり繰り返してきたんじゃ。
じっと待っちょったら、お天道さまは戻ってくる。
お前は、ここと居場所を決めたら、雨が降ろうが氷が降ろうが、動くな。
春夏秋冬はあっても、お天道さまは必ずまたお前を照らす」

『流転の海 第1部』より一部抜粋

 

これもまた宮本さんご自身がお父様に言われた言葉だそうで、言われたときには「そのとおりだな」と宮本さんも思ったそうです。吾郎さんも宮本さんの話を聞き、「僕もこの仕事をして30年経つんですけど、子どもだったし、動きようがなかった。あまりにも世間のリアクションが大きかったというか、で天職って思い込んでしまった」でもそれは宮本さんが仰るように、誰も経験が出来ない経験なのでしょう。ただ、誰でも若いときであれば絶対そういう悩むを抱える時期があったはずなのに対し、天職だと思い込んだのと、そこにいなければいけなかった環境が吾郎さんにはあったのも事実です。それが幸せかはわかりませんが、宮本さんが仰るように「これからもずっとそこへ座っててください」ファンもまたそう思っているのは吾郎さんにも伝わっているとは思います。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 息子から父へ伝えたい言葉

『流転の海』シリーズが完結した今、宮本さんがお父様に伝えたい言葉は何かと尋ねたところ、「あの人がいなければこの全九巻ていうのは生まれなかったわけで、そこへ松坂房江っていう、僕の母がモデルですけど、この二人がいなければ全九巻、原稿用紙7000枚の小説は生まれなかったわけで。だから"お父さん、俺、親孝行したやろ?"って言いたいですね」

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 宮本さんの書斎とは?

宮本さんのご自宅がある兵庫県伊丹に訪れたゴロデラスタッフ。(つまり、今回の出演のためにわざわざ上京してくださった宮本さん)

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基本的に2~3枚の原稿用紙であれば手書きにするものの、70歳をすぎる前から手が震えるようになってきて、今はパソコンで打っている宮本さん。その前からパソコンはやっていたので、今さら覚える必要はなく大分助かったそうです。ただし、第七部『満月の道』まではすべて手書き、しかも原稿用紙はオリジナル。 

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万年筆はSailorの先っぽが非常に太いやつだそうです。実は宮本さんはかなり筆圧が高いらしく、普通の万年筆ですとすぐに先が割れてしまうのだそうです。ですが、このSailorの先が太いやつだと頑丈で、筆圧が高くても問題なく使えるのだとか。そして執筆は大体14時からと決めているのだそうで、基本的には17時、調子が良ければ18時までを執筆の時間にあて、それが終わったら焼酎のお湯割りを飲んで過ごす宮本さん。ちなみに書斎にあるベッドは読書ベッドと呼んでいるらしく、本はベッドの上で仰向けになりながら読むのが宮本さんのスタイル。ちゃんとした四六判の本を購入しても、もう一冊別に軽いから文庫本も購入するのだとか。軽いし、文字も大きいし、電子書籍も読まれるそうで、一つには400冊、もう一つには500冊以上入っているとのこと。

執筆は毎日するとは限らず、連載が終了したときにはゴルフの打ちっぱなしに行ってみたりはするそうです。そして筆が進まないときもあるにはあるものの、お風呂に入るときだとか、お酒を飲んでいるときだとか、テレビを見ているときでもどこかで考えているそうで、宮本さんとしては「書けば名作が書ける」んだと自分の思い込ませるそうです。だから書けなくても書くのだそうです。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 山田くんの消しゴムハンコ

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⇒宮本さんは喋りが下手だと仰いますが、ゆったりとした心地よい喋り方は穏やかな宮本さんそのものといった感じでしたし、次の瞬間に外山さんの「よく仰いますよ」と笑い飛ばした会話から、その空間がとても心地よいものだと伝わってきます。常にゴロデラの収録はそんな空気が伝わってくるので、見る側も心地がよいのでしょうね。

 

 

 

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