【考える葦】

某男性アイドルグループ全活動期メンバーで、左利きな彼(稲垣吾郎)を愛でる会

『チンギス紀』と『ゴロウ・デラックス』

2018年7月26日放送の『ゴロウ・デラックス』第307回目のゲストは、ハードボイルド小説の第一人者であるあの作家さんが再びの登場ということで、北方謙三さん(70歳)

北方さんはハードボイルドの第一人者として数々の賞を受賞。

 

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さらには執筆期間17年、全51巻に及んだ中国の歴史小説・大水滸伝シリーズでは累計発行部数1,000万部を突破。そして直木賞選考委員も務める作家界の重鎮。そんな北方さん、前回出演された際にはハードボイルドをたっぷり語っていただきましたが、今回は新たに挑む歴史大河小説に迫ります。というわけで今夜の課題図書は、 

 

チンギス紀 1-2巻 2冊セット

チンギス紀 1-2巻 2冊セット

 

 

偉大なるモンゴル帝国の礎を築いた英雄、チンギス・カンの波乱の生涯を描いた作品。そこには作家・北方謙三が想像で描いた英雄、チンギス・カンの男の生きざまが。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 北方謙三が描く英雄チンギス・カン

今回、なぜチンギス・カンをテーマに選んだのかというと、元々チンギス・カンは北方さんの書きたい人間の中には入っていたのです。ただ、当時は大水滸伝を書いており、登場人物が南へ行ったり、北に行ったりしていくうちに北へ行く人はモンゴルにたどり着くわけで、その場所は20年後にはチンギス・カンが登場するのだなと思うと、なんとなく物語として書きたくなってきたわけです。

 

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チンギス・カンとは巨大な帝国を築いたモンゴルの英雄。彼はモンゴル高原の小さな民族からわずか20年で、中国からカスピ海に至るまでユーラシア大陸をほとんど横断する領域を支配し、孫世代まで含めると世界の4分の1を支配したと言われています。

 

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北方さんはチンギス・カンという壮大なテーマを書くにあたり、どれほどの資料を参考にしたのでしょうか。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 40歳まで資料のない英雄、チンギス・カン

実はこれまでの巨大帝国を築き上げた英雄にも関わらず、チンギス・カンの資料は40歳ぐらいまで何もないのです。そのため、北方さんが今回の資料として参考にしたのは、

 

元朝秘史(上) (岩波文庫 青411-1)

元朝秘史(上) (岩波文庫 青411-1)

 
元朝秘史(下) (岩波文庫 青411-2)

元朝秘史(下) (岩波文庫 青411-2)

 

 

この2冊のみだったというから驚きです。中世モンゴルの歴史書で、チンギス・カンの一代記を中核に歴史が記されているものの、いつ書かれたのかも作者も不明という本のため、言い伝えがほとんどのために資料といえるのかは疑問なのです。なぜ資料が残っていないのかといえば、字がないからで、北方さんはほぼ想像でこの本を書いているのだとか。そのため、40歳までは小説家としての領域で、そこから資料も入ってきた小説の領域と言えるのです。

チンギス・カンがどういう人物であったのかというよりも、今、あの時代の英雄を見て、どんな人物であってほしかったか?を描こうとしている北方さん。

チンギス・カンはいつどこで生まれたのか、どんな生活を送り、何が原因で死に、どこで葬られたのかという人物史の基本事項すら謎に包まれています。例えばどんな性格だったのかというのも所説あり、悪魔のような征服者とも、神のように優れた支配者とも言われています。そんな北方さんが想像するチンギス・カンが領土を広げ続けている理由の部分を吾郎さんが朗読。

 

吾郎モンゴルは、乱れている。
タイチウト氏には、長を名乗る者が何人もいて、足の引っ張り合いをやっている。
キャト氏は、実力はあったのに、長のイェスゲイが死んで、総崩れだ」
「そうなのですか」

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「西には、ケレイト王国がある。
ナイマン王国もな。
メルキト族は強いし、タタル族には、金国という後ろ盾がある。
こう分裂しているようでは、モンゴル族の未来はないな」
大地はひとつなのに、人はなぜ争うのだろうか、とよく考えます」

 

北方さんはチンギス・カンは戦をなくそうとしていたと想像するのです。それは非常に観念的理想的になってしまいますが、本当は戦をなくすことは出来ないのです。でもをなくすためにをする、見果てぬ夢をみた男の話だと北方さんは考えるのです。どうせ叶わない夢だからこそ、純粋な夢は抱いていたほうがいいと北方さん。小説というのはある種、祈りのようなもので、一つきちんとしたものを心の中心に持って物語を構成しないと小説の意味が少なくなると思うのです。もちろん、口では言いませんが、書き手として一つ祈りだけは持っていたいと北方さんは考えるのです。 

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain チンギス・カンに残酷な一面は?

40歳ぐらいからチンギス・カンの戦績や戦の資料が出てきますが、抵抗したものは皆殺し。抵抗しなかった場合は自分たちの軍に取り入れます手段を選びます。それはチンギス・カンの戦をなくしたいという祈りとは相反するようでいて、逆に出来るだけ戦を少なくするために必要な行動だったのだと北方さん。こうして降伏した他国の人々を取り込んでいったチンギス・カンですが、しかし国も、言語も、宗教も違う人々をどうやって軍としてまとめ上げたのでしょうか。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 受け入れた他国の人々をまとめ上げた方法

北方さんは軍の中で足の速い人、力の強い人といった能力別に分け、プロジェクトチームを組み、

 

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こうしたグループを作ることで人種を超えた軍を作ることに成功したのだと北方さんは想像するそうです。それはチンギス・カン自身に人の能力を見抜く才能がずば抜けてあったからこそで、実際に色んなところを征服するとそこにいる有能な人間家臣にしたりもしているのです。つまり、当時にしては先進的な思考で、色んな人の思考を聞く耳を持ち、受け入れる柔軟性もあったのがチンギス・カンであったともいえるのです。それだけ北方さんの物差しでも測りきれない器の大きさを持っていたであろうチンギス・カン。だからこそ、「私の物差しでは測りきれません」というところが書ければいいなと思っているそうです。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 登場人物は全部自分

ちなみに北方さんは登場人物のキャラクターを描くときは全員自分を思い浮かべるそうです。例えば卑怯なやつがいたとして、その卑怯な心境の一部分は自分だったりするのです。そういうふうにして物語の登場人物に弱さも含め、強さは自分の憧れだと自分の一部分が出てしまっているのだろうと北方さんは考えているそうです。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 表現とは自己表現

表現をするというのは多分、自己表現で、例えば吾郎さんが色んな役柄を演ずるにしても、その役柄を通してどこかで自分を表現しているし、カメラマンとして北方さんが外山さんを撮るとする。被写体は外山さんではあるものの、シャッターを切る瞬間には外山さんを通して自分を撮っている。表現という名をつけるならば、そういうことなのだと。それを聞いた吾郎さんが、人が生きるというのはそういうことかもしれないと。

ただ人が生きるだけだったら米と水と塩があればいいところを、音楽があって救われた人がいたり、芝居を観て泣いたり、小説があって良かったと感じるのが人間なのです。

……と今日はいいことばかりを言う北方先生なのでしたw

そんな『チンギス紀』には今の北方さんの心境を表した部分があるそうで、そこを外山さんが朗読します。

 

外山「なあ、ボオルチュ。
俺は自分が死ぬだろうと思っていたが、まだ生きている
天が、生きよと言っているのだ。
人は、死ぬ時は死ぬ。
天が、死ねと言うからだ。
天の声は、聞こえはしないが、躰が感じる。
いま、俺はなにも感じていない。
だから、心配するな」
「テムジン様」
俺がまだ生きて、やるべきことをやれ、と天が決めたら、俺はなにがあろうと死なん。
自分の生き死にについて、俺はそれ以上を考えるのはやめた」

 

かつて事故などにより2回ほど生きるか、死ぬかという目に遭ったらしく、タクラマカン砂漠で車が5回転して全部潰れたときも皆、北方さんは死んだと思いながら車から引きずり出したらしいのですが、無事だった北方さんはそのときに小説の神様っているんだなあ」と、もうちょっと生きて書けと言われているのだと思ったそうです。

とここで、北方さんが小説を書くために行っている意外な趣味の話に。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 意外な趣味

小説家である以上、いつ20歳の青年を主人公にした小説を書くかもわからないので、若い人が聴く音楽を聴いたり、ロックのコンサートにも一人で変装して行かれるそうです。 時にはモッシュといって興奮した観客が密集した状態で無秩序に体をぶつけ合う現象も行い、 持ち上げられることもあるそうです。"じじいだから落とすなよ!"などと言われるのだとかw

ちなみに今、嵌っているアーティストは小柳ゆきさん、SuchmosクリープハイプBLANKEY JET CITYTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT9mm Parabellum Bulletといった割にハード系。アンテナを伸ばしておいて「斬新な音楽があったら教えてくれ」と言っているそうなのですが、それを聞いた吾郎さんの目が輝きます。「メル友じゃないですか、40歳年下の」具体的なツッコミに北方さんもちょっぴり絶句。楽しくなってしまった吾郎さんたちに話は大分脱線してしまいましたが、ここでモンゴルに取材しに行った北方さんが飲んだという作中にも登場する『馬乳酒』をいただくことに。

 

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『馬乳酒』
遊牧民族には欠かせない、馬の乳を発酵させたお酒。カルピスのヒントになったとも言われている。

 

 飲んだ吾郎さんはヨーグルトを10倍酸っぱくしたようなと言い、外山さんもヨーグルトにレモンを入れたような感じだと感想が。実際に色んな家に行って飲まされた北方さんですが、家によってはものすごく酸っぱくて、酢酸飲まされたんじゃないかと思うほどだったのだとか。そして『馬乳酒』で少し酔っぱらってきた北方さんは、とある授賞式のときのエピソードを語ってくれました。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 記者会見での発言がまさかの……

北方さんは座り、後ろには観月ありささんと小栗旬さんが立っている形での記者会見。ワイドショーとかもいっぱい来ていたそうなのですが、「どういうときにお酒を飲みたいくなるのですか?」と質問に、ハードボイルドの小説家らしく「人を殺したときだ。ただし紙の上でな」と格好良く答えたはずが、"ただし紙の上でな"がカットされ、結果、単なる危ない人に見られるという。また別のトーク番組では、銀座の女と付き合うときには「2万円でも、3万円でもいいからパンツの中に突っ込んでおけ!」川上宗薫さんという亡くなった先輩が言ったとそこまで伝えたのに、「銀座の女と付き合ったらパンツの中にお金を入れてる」と北方さんが言った話になったそうで、それを聞いた吾郎さんは「この話も北方さんが"銀座でパンツにお金を入れてる"って編集しますからね」とw 北方さんではありませんが、本当に編集って、テレビって怖いですw

始まったばかりの『チンギス紀』ですが、北方さんの想定では11~15巻ぐらいになる予定で、 また来てほしいという外山さんと吾郎さんに対し、「私もね、あんたがたがきちんと読んでくださってるから話し甲斐がありますよ、本当に。また読んでくださいよ」という嬉しいコメントが。これは吾郎さん、外山さんはもちろん、番組を構成する上でしっかりと読んでいるスタッフの皆さんも嬉しい評価だと思いますし、それをきちんと番組内で伝えてくださる北方さんもさすがだと思いました。とにかく素敵な北方さんを吾郎さんも外山さんも慕っているのが番組を見ているだけでも十分に伝わってきます。

 

f:id:kei561208:20180622175426p:plain 山田くんの消しゴムハンコ

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f:id:kei561208:20180622175426p:plain Book Bangネット記事

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