『かがみの孤城』と『ゴロウ・デラックス』
2018年6月28日放送の『ゴロウ・デラックス』第303回目のゲストは、2018年の本屋大賞を受賞された辻村深月さん(38歳)
というわけで今夜の課題図書は、
吾郎さんも、外山さんも読んだ感想としては世代を超えて色んな人たちに愛される大好きな小説で、外山さんは最後のほうは大号泣だったと(僕だってそうだよ by 吾郎)
2004年に「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞を受賞、作家デビュー。
2011年、吉川栄治文学新人賞を受賞した「ツナグ」は松坂桃李さん主演で映画化され、
2012年、「鍵のない夢を見る」で直木賞を受賞。
そして今年4月、全国書店員が選んだ“いちばん!売りたい本”に授与される「本屋大賞」 が発表され、見事大賞を獲得。
受賞してわかった書店員の想い
実は本屋大賞は4回目のノミネートだった辻村さん。より書店員さんが身近に感じられ、別格に遠いと感じていたものが実はアットホームな賞であることに気づいたそうです。それは受賞しなければ気づかなかったのか問う吾郎さんに対し、本屋大賞はノミネートを喜ぶ賞だと思っていたらしく、受賞した当日、書店員さんたちが自分たちが作ったPOPを1枚、1枚手渡してくださったそうなのですが、どれも素晴らしい力作揃い。
本屋大賞は書店員さんたちが売りたい本を選ぶ賞ではありますが、さらにもっと言うと「この本を必要とする人がいる」 と書店員さんたちに思ってもらえるような本だと、主人公たちに対して“良かったねえ”という気持ちになったそうです。
主人公はあることがきっかけで不登校になってしまった中学生、こころ。まずはそのこころの心情部分が描かれた箇所を吾郎さんが朗読します。
転入生がやってくる。
その子はなんでもできる、素敵な子。
クラスで一番、明るくて、優しくて、運動神経がよくて、しかも、頭もよくて、みんなその子と友達になりたがる。
だけどその子は、たくさんいるクラスメートの中に私がいることに気づいて、
「こころちゃん、ひさしぶり!」
と挨拶をする。
周りの子がみんな息を呑む中、
「前から知ってるの。ね?」
と私に目配せをする。
みんなの知らないところで、私たちは、もう、友達。
トイレに行く時も、教室移動も、休み時間も。
だからもう、私は一人じゃない。
真田さんのグループが、その子とどれだけ仲良くしたがっても。
その子は、
「私はこころちゃんといる」
と、私の方を選んでくれる。
そんな奇跡が起きたらいいと、ずっと、願っている。
そんな奇跡が起きないことは、知っている。
『かがみの孤城』より一部抜粋
実はこういった不登校の描写には、10代のころの辻村さんご自身の体験や葛藤が活かされているそうです。
描きたかったのは不登校の痛み
学校が楽しくて、何の憂いもなく登校できていた子はあまりいないと思っているし、行きたくない日があるのも当たり前だし、そういった1日、1日を積み重ねた結果が365日になっている人が多いと思うので、その子たちを描くことで学校が持っている窮屈さとか、楽しいことばかりじゃないところが描けるのではないかと思って、あえて不登校の子を主人公にしてみたのです。
辻村さんの中学生時代って?
そんな辻村さんの中学生時代はどうだったのかというと不登校だったことはないですし、友だちもいましたし、振り返ると楽しそうに写っている写真もたくさんあるものの、中学生時代が一番辛かったなと思っていたそうです。というのも小学生のころはまだ大人を無条件に信じられたため、それが功を奏して守られていた部分もあった。そして高校生になれば自由に、大人に反発することも出来るようになる。けれど、中学生は一番大人と子どもの境目で、当時、作家になりたいという夢はあったものの、作家を身近に見たこともないし、自分の将来がどうなっていくのかもわからない一番複雑な時期だったと。
吾郎さんの中学生時代
それを聞いた吾郎さんが中学2年生から芸能界で働き始めたため、忙しくて学校に行けなかったと。ある意味、不登校だったかもしれないと言えば、そういう子も(物語の中に)作ればよかったと辻村さん。でもやはり独特だったなあと。午後からだったり、ちょこっとだけ出たり、校庭を1人で歩いているときとかは皆に見られたりして、TVとかにも出演し出して、ざわざわし出したころだったのでちょっとした優越感もありながら、こっぱずかしさも抱えていたそうです。
そんな不登校で自分の部屋に閉じこもるこころに、ある日、事件が起こります。その個所を外山さんが朗読します。
自分の部屋をもらってすぐにつけてもらった、ピンク色の石が枠を囲った、楕円形の鏡。
音のほとんど聞こえないテレビの放つ光が、今日はやけに眩しい。
テレビを消してしまおうと、ふっと、何気なく顔をあげたその時、こころは
「え?」
と息を呑んだ。
テレビは、ついていなかった。
その代わりに部屋で光っているもの、それは入口近くにある鏡、だった。
嫌だ、怖い、と思った次の瞬間、体が光に呑まれた。
「ねえ、起きて」
「ねえ、起きてってば」
狼の、顔。
縁日で売られるような、狼の面をつけた女の子が立っている。
城が建っている。
立派な門構えの、まるで西洋の童話で見るような、城が。
「おっめでとうございまーす!」
「安西こころさん、あなたは、めでたくこの城のゲストに招かれましたー!」
『かがみの孤城』より一部抜粋
光る鏡に託した思い
他の世界に行くのになぜ鏡を使ったのかと問われると、こころの気持ちを考えると周りは敵だらけで、外に出ていくのは怖いだろうなと思ったのと、中学生時代の日常は学校と家の往復ぐらいしかなくて(後は塾ぐらい)、その1つである学校に行かないとなるとこころにはどこにも行ける場所がなく、どうしようかなと悩んだ結果、“怖いんだったらこっちから迎えに行こう”と鏡を光らせることにしたのです。
光る鏡のおかげで実生活の悩みから離れ、冒険の世界に行くことが出来たこころたち。これには辻村さんが学生時代にあるものに救われた経験がヒントになったそうです。
こころたちに光る鏡があったように、中学生時代に居場所がないと感じた辻村さんの部屋には本があり、その本たちによってたくさんの場所に連れていってもらったそうです。中でも一番好きで影響を受けた作品なのが、
そんな辻村さんが執筆するお部屋の写真が、
本棚は藤子・F・不二雄先生の大全集で埋まり、グッズもあちらこちらに。中には直木賞受賞したときにむぎわらしんたろう先生にいただいたサイン色紙まで。ちなみに今回の本屋大賞受賞でむぎわら先生から新しいドラえもんの色紙もいただいたそうですw
こうしたドラえもん愛は作品にも反映されており、2005年に出版された
では第1章どこでもドア、第2章がカワイソメダル……と各章のタイトルがドラえもんのひみつ道具に。デビュー3作目の作品でしたが、ドラえもんについて語る作家さんたちへの憧れもあり、自分もそろそろドラえもんが好きだとわかるような作品を書いてみようとした結果、作り上げられた各章のタイトルだったのです。
ドラえもんのどんなところが好きなのかという問いには、日常と不思議が地続きなところだと辻村さん。例えば畳の下が宇宙と繋がっていたり、机の引き出しがタイムマシンになっていたり、そうやって日常のすぐそばにファンタジーやSFの世界があって、不思議なことがあるかもしれないと思えるところが大好きですし、小さなころからドラえもんを見ているため、家の思い出と結びついていることが多く、毎週金曜日に見るときはこんな食卓だったとか(あああ、思い出した。ちょっとほろ苦いお父さんのビールの香りだとか by 吾郎)後はドラえもんのカップで歯みがきをしたり、初めて観た映画がドラえもんだったりと、そういう自分が漫画好きだったところの思い出の中心にドラえもんはあるのだなと、まさに国民的漫画と呼ばれるものの底力を感じるそうです。
綾辻作品との衝撃的な出会い
学生時代の辻村さんが救いを受けた本が、
ある孤島を訪れた大学のミステリー研究会のメンバーが次々と殺されていくミステリー小説。これを小学6年生のころに読んだ辻村さんは、真相がわかるところで驚きのあまりに本を手から落としてしまうほどの衝撃を受けたそうです。その勢いに隣の部屋にいた妹にネタバレで全部喋るということをしてしまうぐらいだったのだとか。とにかくミステリーとはこんなに凄いのかと、そして驚きは感動になるのだと思ったのです。真相がわかることで強い感動がこっちに来るのを最初に知ったのがこの綾辻先生だったのです(これ“かがみの孤城”だってねえ、真相を知って何人の人が感動したか by 吾郎)
綾辻行人先生への深すぎる愛
以来、綾辻先生の大ファンになった辻村さんでしたが、実はこのペンネームの“辻”も勝手に綾辻からいただき、“深月”という名前も「霧越邸殺人事件」に出てくる登場人物からいただいたという。
勝手にいただいたものの、デビュー前後に綾辻先生から“まあ、いいでしょう”という言質をいただいたのでそれを勝手に了承だと思って今まで活動してきた辻村さん。
外山「何か不安になっちゃったんですね、ストーカーだと思われたらどうしようって」
辻村「だけど綾辻さんがそれを見て、何か“よくもこんなにたくさんのハガキをとは思ったけど、そんなストーカーだなんて思ったことなかったですよ”と言って、お仕事場のご住所も教えてくださって“本の感想とかあったらこちらまでどうぞ”って言ってくださったんで。それからお手紙のやり取りとかを何回かさせてもらったんです」
吾郎「嬉しい」
辻村「でも最初にお返事をいたいたときに見た文面が短いものなんですけど、私がそれまで本の世界で見ていた綾辻さんの後書きとか、エッセイとかに書かれている文体と同じで、短い文章の中でも“あ、この作家さんが自分に書いてくれたんだ”ってわかる。これが何か作家性なんだと思って」
吾郎「まあ、まあ、出るんでしょうね」
辻村「で、そのいただいたことでそれまで作家という職業が現実にやってる人なんて全然見たこともなかったんですけど、あ、現実に作家さんっているんだっていうふうに思えて、そこから先に小説を書いていくときに、やっぱり綾辻さんからお手紙をいただいたことっていうのがものすごく励みになりましたね」
吾郎「へええ、それはデビュー前ですよね」
辻村「あ、そうですね」
吾郎「それでその小説を書く上でどんな影響を受けたんですか?」
辻村「やっぱり、今回の“かがみの孤城”もジャンル分けがすごい難しいんですよ。ジャンル分けするときに単なるファンタジーではないし、かといってSFとか、ミステリーっていう一方向でもないし。じゃあ、青春小説なのかというとそれ以外のところもあるんで。だけどこの形になったのは、多分、私が綾辻んさのものを好んで、ミステリーが大好きなので多分、何を書いてもミステリーになってくるんですよね。だから、そういうところの影響と、綾辻さんのミステリーと後、ドラえもんからもらった少し不思議の世界観というのはきっと私の基本の部分にあるんだろうなと思います」
2018.06.28『ゴロウ・デラックス』より一部抜粋
執筆中のこだわり:好きな曲をかける
ドラえもんや綾辻先生と同じぐらい大槻ケンヂさんの歌詞世界とか、小説が大好きな辻村さん。だから小説を書くときは大体、大槻ケンヂさんの筋肉少女帯か、特撮の割に激しい曲がかかっている状態なのだとか。音楽がかかっているとテンションが高くなるのだそうです。だから執筆中には音楽が欠かせないのだとか。
山田くんの消しゴムハンコ
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