『魔女の宅急便』と『ゴロウ・デラックス』
2018年6月14日放送の『ゴロウ・デラックス』第301回目のゲストは、児童文学作家の角野栄子さん(83歳)
『魔女の宅急便 』や『小さなおばけシリーズ』など、世代を超えて愛され続ける作品を書き続け、これまで出版した本は260冊以上。2000年には紫綬褒章*1、2014年には旭日小綬章*2を受賞。そして今年3月、長年の功績が世界で認められ、国際アンデルセン賞、*3作家賞を受賞。日本人では1944年に「ぞうさん」などの童話で知られるまど・みちおさん、2014年に「獣の奏者」で知られる上橋菜穂子さんに続き、3人目の快挙なのです。
国際アンデルセン賞を受賞
まさかご自身が受賞できるとは思ってもいなかったので、33人の作家賞の候補に上がっていることすら誰にも伝えていなかった角野さん。受賞は夜遅くに担当編集者さんより“決まりました”と連絡をいただいて知ったそうですが、授賞式は8月30日にギリシャのアテネで行われるそうです。「ちょっと遠いですね」by 角野さん
というわけで今夜の課題図書は、
そのキキが旅立つシーンを角野さんも含めて朗読。
足もとでは黒猫のジジも負けてはいられないというように、横から鏡をのぞきこんでは、体をのばしたり、ちぢめたりしています。
かと思うと、ふたりしてコキリさんのほうきに乗りこんで、ちょっと横をむいて気どってみたりしています。
コキリ(角野)「さあさ、あなたたち、おしゃれはそのぐらいにしたら……ほら、西の空を見てごらん、夕やけの色がもうあんなにうすくなってきたわ」
ナレーション(外山):コキリさんはいそがしそうにあちこち動きまわりながら声をかけました。
キキ(外山)「かあさん、もうちょっとでいいからスカート、みじかくしてよ」
ナレーション(外山):キキはスカートをひっぱって、つまさき立ちしながらいいました。
コキリ(角野)「どうして? とてもにあっているのに」
キキ(外山)「もうすこし足が見えたほうがすてきだと思うわ」
コキリ(角野)「そのほうがずっとお上品よ。おとなしく見えるほうがいいのよ。そうじゃなくても魔女のことをとやかくいう人が多いんだから。さ、これ、おべんとうよ。」
ナレーション(外山):コキリさんはキキの肩をたたいて、そばに小さな包みをおきました。
『魔女の宅急便 』より一部抜粋
『魔女の宅急便』といえば、宮崎駿監督によってアニメ化され、誰もが知る国民的児童小説となりましたが、この小説が画期的だったのは幼くて可愛い魔女を描いたこと。それまでの魔女といえばグリム童話に出てくるような怖くて、意地悪で、おばあさんの魔女がほとんどでした。
『魔女の宅急便』誕生秘話
お嬢様が12歳のときに描いた絵に魔女が描かれており、魔女が乗ったほうきにはラジオが掲げられ、房には三つ編みでリボンが結われているのを見たときに、少女の魔女を書いてみようと思い立った角野さん。そして、キキが始めるお仕事をなぜ宅急便にしようかと思ったのかというと、当時、宅急便が流行り始めたころで、飛べるだから速く届けることが出来るだろうから、宅急便というお仕事を魔女がしてみるのも面白いかなと。
ちなみに『宅急便』という言葉はヤマト運輸が提供する宅配便サービスの商標なので、本来はヤマト運輸さん以外は使えないのです。そのため、ハードカバーになるときにはちょっと問題になったそうですが、お話を通したところ頭に『魔女の』がつけば問題なしと無事OKをいただいたそうです。
そして1989年に宮崎駿監督によって映画化され、大ヒットを記録。
宮崎アニメとの幸せな出合い
アニメを初めて観たときには原作とは大分違う(ラストの飛行船部分は原作にはない)ために“おやおや”と思われたそうですが、角野さんご自身が映画化に対してお願いしていたのは『魔女の宅急便』はそのままに、そしてキキという少女の世界観は変えないでいただきたい、この2点でした。そこに宮崎監督の世界観が合わさった結果、本が太刀打ちできないぐらいの大ヒットを記録し、世界中にこの物語は伝わったのです。
そんなアニメ化をきっかけに世界中で愛されるようになった『魔女の宅急便』ですが、今では英語、イタリア語、ベトナム語など9か国語に翻訳されています。
中国語や韓国語、ヒンディー語などのアジアでは表紙は同じなのですが、ヨーロッパでは魔女は怖いイメージのため、イラストも変更されています。そして『魔女の宅急便』はもう一つ、これまでの魔女のイメージを覆すことが……それは何でも魔法で夢が叶えられるのは嘘くさいと思っていたため、使える魔法は一つにしようと。
キキの魔法は一つだけ「ほうきで空を飛ぶ」こと
何でも魔法が使えるとそれで話は終わってしまう。使える魔法が一つだけとなれば、ほうきが壊れることもあるし、飛べないときだって出てくると。そのときに13歳の女の子がどうやって工夫をして乗り越えるか、そのほうが物語として面白くなると思ったのだそうです。まさにスーパーウーマンでは憧れはあっても身近に感じられないものの、等身大の女の子だからこそ、読む人たちはキキを応援したくなるのです。
こうして新しい町でたくさんの人と出会い、少しずつ成長していくキキ。しかし、仲良しのトンボさんの一言で悩んでしまうことも。思春期を迎えたキキが描かれているシーンを吾郎さんと外山さんとで朗読します。
これといった理由もないのに、なにかいらいらしてくるのです。
キキ(外山)「この町にきてからずっとたいへんだったから、つかれがでてるんだわ」
ナレーション(外山):キキは自分で自分にいいわけをいうようにときどきつぶやきました。
でも、それだけではないことに、キキはぼんやりと気がついているのです。
絵描きさんの絵をお散歩方式で運んだのをきっかけに、飛行クラブのとんぼさんは、よくキキの店に遊びにくるようになりました。そんなとき、とんぼさんがなにげなくいったことばを、キキは気にしていたのです。
とんぼ(吾郎)「キキってさ、空を飛ぶせいかな、さばさばしてて、ぼく、気らくでいいや。女の子っていう気がしないもんな。なんでも話せるし」
ナレーション(外山):そのときは、とんぼさんが自分をほめてくれたと思いました。でも日がたつにつれ、
「女の子っていう気がしないもんな」
ということばが心にひっかかってきたのです。
キキ(外山)「あのとき、あたしの目は絵よりかわいいっていったくせに……こんどは、さばさばだって、……さばさばってどういうこと? こういう大きな町の女の子っていうのは、とくべつなのかしら、……そんなにちがうのかしら」
ナレーション(外山):キキは心がどうももやもやして、決まりがつかない感じなのでした。
『魔女の宅急便 』より一部抜粋
思春期を迎えたキキととんぼの関係
吾郎さんに“わかりますか?”と尋ねられ、わかりますよ、女の子として見られていないということと外山さん。13歳という大人になりかけて、でもまだまだ子どもな部分をたくさん持っているキキは、不思議なエネルギーがあって、いつも面白いなと書いてて思うそうです。ただ男の子は女の子に比べるとまだまだ幼いので、そういうことには気づかないと吾郎さん。だからもし娘とかできたらすごい戸惑うだろうねと……いませんけど、子どもw
その後、とんぼとキキはどうなったのかというと、
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第6巻では35歳になったキキはとんぼさんと結婚し、双子のお母さんに。
物語を書き始めたときに“どうして男の子は魔女になれないのか?”という疑問を抱いていた角野さん。だからキキには双子を生んでもらって、女の子は魔女になれるのに、男の子はどうしてなれないのかまで書いてみようかと考えていたそうです。
そんな角野さんの創作の秘密を探るべく、鎌倉にある自宅兼仕事場に外山さんがお邪魔させていただきました。
角野栄子のご自宅公開!
実は角野さん、1冊の本になってしまうほど内装にこだわりを持っているそうで、
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まず目に飛び込んでくるのは玄関のドアや靴箱のキレイな赤、というか角野さん曰く、いちご色。他にも壁紙として使われてもいます。
そして階段を上がれば作り付けのガラスケースがあり、中にはご自身で旅行先で買われたものとか、プレゼントで頂いたものを飾ってあります。階段を上がる途中からも見えますし、2階の部屋からも見ることができます。
オシャレにもこだわる角野さんはプラスチックでできた色鮮やかな指輪などもコレクションしており、安井のもあり、海外に行くと駅や売店などでも販売しているため、よく買われるのだとか。大きなアクセサリーが多いのは、そちらに目が行き、顔のしわに目が行かないようにするための作戦なのだとかw
お部屋は至るところに「いちご色」と白を基調とした角野ワールドそのもの。本棚も多く、どういう本が多いのか尋ねる外山さんに対し、普通の時間に読むのは意外にもミステリーが多いと角野さん。持ち運びがしやすい文庫が多いそうですが、ご自宅でちゃんと読むときには、娘さんと大好きで一緒によく読んだ、
中には娘さんがたまには詠んでみたらどう?と置いていった漫画もあります。そしてたくさんの名作を生み出してきた仕事場へ。
短いエッセイは直接パソコンで打ってしまうものの、長い文章は一度手書きをしてからパソコンで打たれるそうです。ちなみに手書きのときに使用するアイデアノートが、赤の片面が水玉で、もう片面が格子柄であったりと可愛らしい、でも中身は真っ白なタイプ。絵も描いたりもしますし、線が引かれていると真っすぐに書かなきゃいけないという束縛を受けるので真っ白なタイプじゃないと書けないそうです。
「束縛を受ける感じが嫌だというのがいいですね。自分の中で制限なしに。だからノートも白。自由にどこに描いてもいい」 by 外山
だから縦書きになったり、横書きにもなったりするそうで、基本縦書きではあるものの、なぜか絵本のことを考えるときは横書きになると今、新たに自覚された角野さん。
角野流名作が生まれるまで
外でアイデアが生まれたときには松本清張氏の「黒革の手帖」ではありませんが、同じようなタイプの手帖(もちろん罫線が引かれていないタイプ)に描かれるそうで、自分の中で生きたように感じられると喋り出したりするので書き始めるそうです。つまりは終わりはどうなるかわからない。そのキャラクターを角野さんが好きであれば、4分の3ぐらいのところで終わりが見えてくるのでホッとされるのだとか。角野さんの頭になってみた吾郎さんなのでした。
山田くんの消しゴムハンコ
出版社Twitter
⭐️角野栄子さんが今週14日深夜〜15日、TBS「ゴロウ・デラックス」・NHK「あさイチ」に出演❗️→https://t.co/cKcemWvcLf
— ポプラ社 (@poplarsha) 2018年6月12日
⭐️あさイチで角野先生へのメッセージ募集中→https://t.co/XvX7z1VSHo#ポプラ社 #角野栄子 #あさイチ #プレミアムトーク #NHK #ゴロウ・デラックス #TBS #魔女の宅急便 pic.twitter.com/yHH4Lfemii
今晩1時3分からの「ゴロウ・デラックス」(TBS系)、ゲストは「魔女の宅急便」「ちいさなおばけ」シリーズの角野栄子さんです。国際アンデルセン賞のお話が聞けるかな。
— ポプラ社ポケット文庫+ (@poplar_pocket) 2018年6月14日
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Book Bang&その他ネット記事
*1:日本の褒章の一つ。学術、芸術、技術開発等の功労者を対象とし、スポーツで顕著な業績を上げた人も含まれる。記章及びメダルの綬(リボン)は紫色。原則として、毎年春(4月29日付)と秋(11月3日付)の年2回、春秋叙勲と同日付けで授与される。審査などの政府事務は内閣府賞勲局が行い、日本国憲法により規定される国事行為として天皇が授与する。
*2:日本の勲章の一つで、旭日章(きょくじつしょう)6つのなかで4番目に位置する。対象者は、公職では政令指定都市の市長、それ以外の市長、特別区の区長、町村長、都道府県議会議員、市議会議員、特別区の議員、公益団体では全国および都道府県を活動範囲としている団体の長、企業経営者では経済社会の発展に対する寄与が大きい企業、国際的に高い評価を得た企業や技術がとくに優秀な企業の最高責任者である。伝達は所管大臣が行うが、総務省関係は都道府県知事が行う。
*3:「児童文学への永続的な寄与」に対する表彰として贈られる国際的な賞。「小さなノーベル賞」とも呼ばれるほどの影響力を持つ。賞の名称はデンマークの高名な児童文学者ハンス・クリスチャン・アンデルセンにちなむ。国際児童図書評議会 (IBBY) によって隔年で授与される。現在は作家賞と画家賞の2部門が存在する。