芥川賞&直木賞SP・後編と『ゴロウ・デラックス』
2018年3月15日の『ゴロウ・デラックス』第289回目は先週に引き続き、恒例企画第158回芥川賞・直木賞作家が全員出演のスペシャル回後編。
まずこちらの課題図書より、
この物語は『銀河鉄道の夜』や『雨ニモマケズ』で有名な童話作家・詩人である宮沢賢治*1の生涯をその父、宮沢政次郎の視点で描いたもの。
宮沢賢治は岩手県の質屋の長男として生まれましたが、幼いころより病気になったり、家業を継がないと言い出したり、そんな息子に父・政次郎はハラハラさせられっぱなし。厳しくしようと思ってはいても、結局、息子への愛が勝り甘やかしてしまう、子煩悩な父と息子の絆を描いた物語だ。
ちなみに作者である門井慶喜さんは2003年デビューの小説作家。過去2回、2015年の第153回直木三十五賞候補として、
そして第155回直木三十五賞候補として、
上がるものの残念ながら落選。今回、念願の初受賞となりました。
歴史小説というと構えてしまう部分がありますが、吾郎さん曰く、「父と息子のラブストーリーだよね。同じ男としてもキュンキュンしましたね」と。そして映像が浮かぶという話から、「ゴロウさん、お父さんの役なんて…」と外山さんが水を向ければ、「僕が今、言いたい言葉言ってくれましたね。売り込みの時間ですよ」とアピールw
そんな『銀河鉄道の父』を朗読します。
「便利なものがあるそうです」
「な、何だ」
「標本箱」
最初から話をここに落としこむ気だったのだろう。
賢治はすらすらと説明した。
「お父さん、買ってください」
賢治は立ちあがり、にわかに顔を寄せてきた。
「理科の勉強だじゃ。学校でも役立つ」
「…………」
「お父さん」
「…………」
半月後、政次郎は古着の仕入れのため京都へ行った。
仕事のあいまに京都帝国大学ちかくの実験器具制作会社の代理店へ入り、われながら蚊の鳴くような声で、
「標本箱を、五百ください」
「はあ」
「それを入れる大箱も。あるかぎり」
値段は予想どおり、紙箱のくせに信じがたいほど高価だった。
鉄道便で花巻へおくる手続きをしながら、政次郎は何度も自問した。
これで子供のただの石あつめに目的と、機能と、体系とがそなわる。
賢治の肥やしになる。
ほんとうになるか。
むしろ賢治を、
(だめにするか)
答は、わからない。
理解ある父になりたいのか、息子の壁でありたいのか。
ただ楽しくはある。
窓の外の夜空を見ながら、政次郎は、気づけば鼻歌をうたっていた」
門井さんがこの本を書いた後、読者の方に多く言われたのが、「宮沢賢治って貧乏な人かと思っていました」という言葉。
新事実?宮沢賢治は超お坊ちゃん
実は宮沢賢治は「宮沢質店」の長男として生まれ、極めて裕福な環境で育っているのです。上の標本箱をねだるシーンは門井さんのフィクションなのですが、その後、上京し、父親に「お金をください」と手紙を書くのは本当にあったことで、実際にその書簡も残されているのです。宮沢賢治という人は大人になってからも親に相当お金の無心をし、おそらく父親もお金を出したのでしょう。そういうダメ息子だったのです。
執筆のきっかけ
門井さんが宮沢賢治ではなく、なぜ父親の政次郎を書こうと思ったのか。そのきっかけは学習漫画だったそうです。子どもたちのために購入したシリーズの学習漫画をたまたま読んだところ、宮沢賢治の父親は物を書かせない悪役として登場したものの、門井さんの目には立派な人に見えたため、政次郎を調べ始めてみたら面白かったので編集者の方にお話をして、書かせてもらうことにしたそうです。
壮絶!文献調査
宮沢賢治に対しての資料は山ほどあるものの、政次郎の資料は何もありませんでした。ただ、賢治の資料の中に1、2行ちょこちょこっと政次郎について記述された部分が出てくるため、たくさんの資料の中からそうやって政次郎について資料を、それこそ砂金を集めるような作業を行い、その砂金で小さな仏像を作るというような感じで作業を行ってきた門井さん。
実際にその資料について、授賞式直前の門井さんにインタビューをしたところ、役に立った資料には賢治が森岡中学校時代の盛岡の古地図だったり、母校・農業高校の構内地図など枚挙にあります。執筆のためにありとあらゆる資料をかき集めたといいます。『銀河鉄道の父』のために集めた資料は段ボール5箱までは数えたそうです。宮沢賢治の全集だけでも3種類は揃えるそうです(ただし、5箱としてはカウント外)
そしてそれだけではなく、独自の年表も作成するようです。
そして門井さんご自身の年表でもあります。というのは、フィクションを書く際でも必ず何年何月何日に何が起こったのかを門井さんは決めて書かれるそうです。そうしないと他の史実との整合性が取れなくなってしまうので。資料の中に史実は普通に書いてありますが、フィクション部分には「〇〇〇シーン」と書くのだとか。ぜひとも、他の歴史作家さんにもオススメしますとのことです。
ちなみに門井さんは自宅とは別に仕事場を持っており、ルーティーンもほぼ決まっているそうで、
朝4時 起床
朝4時半 仕事場へ
朝7時 一旦帰宅
子どもたちと朝食
朝7時50分 昼寝
朝8時15分 執筆再開
夜18時 執筆終了
夜21時 就寝
そしてそんな門井さんの話を聞きながらメモ書きを始める若竹さん。 からの石井さんまでメモ書きを始め、最終的には吾郎さんまでメモ書きを始めるというメモ地獄がw
ただ門井さん的にはメモを取っていただくよりは著作を読んで感銘していただきたいという本音も……何これ、見事な連携プレイはw
そして続いての課題図書は、
物語の主人公はインドのIT企業で日本語教師として働く女性。
インドにやってきて間もないある日、百年に一度の大洪水に遭遇。水が引いた数日後、会社に向かうための橋を渡っていると、その川の泥の中からそこにあるはずもない主人公の思い出の品や行方不明になっていた人間が掘り返されるという何とも不思議な物語。
作者の石井さんも主人公と同じ、インド在住の日本語教師なのです。
吾郎さん曰く、「僕、すごい好きです。気持ちよく振り回していただき、翻弄していただき、ファンタジーとリアルの行ったり来たりが気持ちよくて」とのこと。
そして物語の百年に一度の大洪水も実際に石井さんが経験したことで、2015年4月にご主人と一緒にチェンマイに住み始めた石井さん。その年は雨が多かったのですが、初めて住む石井さんは“こんなものか”と思っているうちに大洪水となり、3日間家に閉じ込められるという出来事が発生してしまいます。
⇒『チェンナイ(インド)における洪水・豪雨の概要と被害状況』
そんなリアルな体験談から生まれた『百年泥』ですが、その醍醐味は日常×非日常が折り重なる、何とも奇妙な世界観。その世界観がわかる一節を外山さんが朗読。
たいてい毎朝九時ごろ、すでに三十度をはるかに超える酷暑の中を私は会社玄関に到着する。
その時ちょうど前方で脱翼した人をみると副社長で、
「おはようございます」
あいさつすると大柄なカレは私にむかって愛想よく片手を上げた。
そのまま趣味のよいブルーのワイシャツの襟元をととのえつつ両翼を重ねて駐車場わきに無造作に放り出す。
すると翼が地上に到達する直前に係員が受け止め、ほぼ一動作で駐車場隅の翼干場にふんわり置いた」
読み終えた外山さんは「本当に私、インドの人は飛んでいるのかと思って」と語り、吾郎さんも「僕も一瞬、ちょっとネットで調べようかと思った」とまさに石井さんの思うつぼな反応を示した二人。実はこの『百年泥』の奇妙な世界観は「マジックリアリズム」という普通の世界が舞台のはずなのに、当然のように非日常なことが起きる表現技法を使って描かれたもの。
石井さんの愛読書でもあるガルシア=マルケス*2を始め、日本でもノーベル賞作家・大江健三郎*3などがこのマジックリアリズムを使い、独自の世界を表現しているのです。
表現技法マジックリアリズム
実は現実は荒唐無稽で、その現実をとらえるのに忠実な叙述の仕方だと思っている石井さん。世界をありのままに、けったいなままに書こうとするとこのマジックリアリズムのやり方が要請されてくる気がするのだそうです。
作品はすべてインドにいる間に書き、生徒たちとのやり取りも実際にご自身の体験が活かされているらしく、かなりヒドイ目にあっているのだとか。普段は毎日の教本作りに終われ、土日もその作業で小説どころの話ではなかったものの、偶然2~3ヶ月の暇が出来たので一気にこの小説を書き上げた、まさに何かが石井さんに書かせてくれた奇跡の小説なのです。
次回作の予定
石井さんはデビューするまでが長かったため、何十、百近くがあり、今、書き直しているものもあるので、インドではなく日本ですが同じように荒唐無稽なけったいな世界を書くとのことです。石井さんは荒唐無稽じゃないと書く気がしないらしいです。
そして最後に皆さんへと言い残したことはないか確認する吾郎さん。実は若竹さんはどなたかにお会いしたかったそうなのですが……「香取慎吾さんに会いたい」とw
あげくに山田くんが消しゴムハンコ披露のために近づいてきたのを慎吾くんと勘違いし、「あ~!!!!!」と絶叫してしまう若竹さん。そして「いないです」と冷静に言う吾郎さんw もちろんその後は「(いなくて)ごめんね」と謝ってましたが。
山田くんの消しゴムハンコ
とにかく石井さん、若竹さん、門井さんと御三方が慣れぬTV出演のはずが和気あいあいと吾郎さん、外山さんらと和気あいあいしている雰囲気がものすごく伝わってきました。また以前は芥川賞・直木賞受賞作家がそろい踏みとなるとどうしても時間が足らない面が強く出てしまうのですが、前後編としたことでそれぞれ作家としての個性が際立ってより面白さが増した感じがします。とりあえず若竹さんはいいキャラをしているので、テレビ向きですね。
〒107-8066 TBSテレビ『ゴロウ・デラックス』御中
〒107-8066 TBSテレビ『編成部』御中
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出版社放送終了後Twitter
昨晩TBS「ゴロウ・デラックス」ご覧いただきましたか? 稲垣吾郎さんの前で香取慎吾ファンを告白した若竹さん。OAではカットでしたが慎吾さんの人柄が解る秘密エピを若竹さんにお教えでした。他の人ファンにもファンサするとはホストとして完璧かと。
— 河出書房新社 (@Kawade_shobo) 2018年3月16日
#おらおらでひとりいぐもhttps://t.co/2HkV2UMQZs
Book Bang&ネット記事
*1:(1896年8月27日 - 1933年9月21日)日本の詩人、童話作家。仏教(法華経)信仰と農民生活に根ざした創作を行い、創作作品中に登場する架空の理想郷に、岩手をモチーフとしてイーハトーブ(Ihatov、イーハトヴあるいはイーハトーヴォ (Ihatovo) 等とも)と名付けたことで知られる。生前彼の作品はほとんど一般には知られず無名に近かったが、没後草野心平らの尽力により作品群が広く知られ、世評が急速に高まり国民的作家となっていった。- Wikipediaより -
*2:(1928年3月6日 - 2014年4月17日)コロンビアの作家・小説家。架空の都市マコンドを舞台にした作品を中心に魔術的リアリズムの旗手として数々の作家に多大な影響を与える。1982年にノーベル文学賞受賞。 『百年の孤独』『コレラの時代の愛』は、2002年にノルウェイ・ブッククラブによって「世界傑作文学100」に選ばれる。
*3:(1935年1月31日 - )日本の小説家。愛媛県生まれ。東京大学仏文科卒。大学在学中の58年、「飼育」で芥川賞受賞。以降、現在まで常に現代文学をリードし続け、『万延元年のフット ボール』(谷崎潤一郎賞)、『洪水はわが魂に及び』(野間文芸賞)、『「雨の木」を聴く女たち』(読売文学賞)、『新しい人よ眼ざめよ』(大佛次郎賞)な ど数多くの賞を受賞、94年にノーベル文学賞を受賞