【考える葦】

某男性アイドルグループ全活動期メンバーで、左利きな彼(稲垣吾郎)を愛でる会

『影裏』と『ゴロウ・デラックス』

2017年10月5日放送の『ゴロウ・デラックス』第268回目のゲストは、デビュー作で第157回芥川賞受賞された小説家、沼田真佑さん(38歳)

これまで数々の芥川賞直木賞受賞された作家が出演された『ゴロウ・デラックス』

 

芥川賞直木賞受賞作家出演
西村賢太苦役列車(第144回芥川賞)」(2011年4月21日&2011年4月28日)

黒田夏子abさんご(第148回芥川賞)」(2013年3月21日)
朝井リョウ「何者(第148回直木賞)」(2013年8月1日)
桜木紫乃ホテルローヤル(第149回直木賞)」(2013年11月21日)
柴崎友香「春の庭(第151回芥川賞)」(2014年9月18日)
黒川博行「破門(第151回直木賞)」(2014年9月18日)
小野正嗣「九年前の祈り(第152回芥川賞)」(2015年2月5日)
西加奈子「サラバ(第152回直木賞)」(2015年2月5日)
又吉直樹「火花(第153回芥川賞)」(2015年8月6日)
羽田圭介「スクラップ・アンド・ビルド(第153回芥川賞)」(2015年8月6日)
東山彰良「流(第153回直木賞)」(2015年8月6日)
滝口悠生「死んでいない者(第154回芥川賞)」(2016年2月25日)
本谷有希子異類婚姻譚(第154回芥川賞)」(2016年2月25日)
・青山文平「つまをめとらば(第154回直木賞)」(2016年2月25日)
村田沙耶香コンビニ人間(第155回芥川賞)」(2016年9月8日)
荻原浩「海の見える理髪店(第155回直木賞)」(2016年9月8日)
山下澄人「しんせかい(第156回芥川賞)」(2017年2月23日)

※なお、放送では大々的に芥川賞直木賞受賞作家が同時ゲスト出演されるようになった2014年9月からでしたが、受賞作品による出席のゲストもリストに掲載しています。

 

そして今夜は、芥川賞受賞会見で“本当に光栄です。1本しか書いてないっていうのがありますよね……何か、例えばジーパン1本しか持っていないのにベストジーニスト賞みたいな”と第157回芥川賞を見事デビュー作『影裏』で受賞した沼田さん。文壇界にすい星のごとく現れた話題の新星は一体どんな方なのか。今夜が初めてのテレビ出演でガチガチに緊張している沼田さんにたっぷりお話を聞きます。

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 受賞の知らせはどこで聞いた?

実は文藝春秋の近くにあるカフェで編集者の方と一緒にいたところ、まず最初は沼田さんのほうに電話がかかっていたのに直接本人には電話がかかってこないようなことを聞いたため、携帯電話を鞄の中に入れていて気づかず。次に編集者宛に電話が入り、すぐに沼田さんにも受賞が伝わったと。

そして受賞会見がラフな格好だったのは、まさに部屋着というか、シャワーを浴びた後に羽織るような、浴衣みたいなシャツで出てしまったからで、本人もまさか自身が受賞するとは想像していなかったのもあるそうです。ちなみに、番組出演はそれなりのシャツを着ているそうですw そんな今夜の課題図書は、

 

影裏 第157回芥川賞受賞

影裏 第157回芥川賞受賞

 

 

【影裏あらすじ】 
首都圏から岩手県へ転勤した30代の会社員、今野。同僚で釣り好きの日浅と知り合い、友情を育むが日浅の転職で疎遠になってしまう。そうした中、東日本大震災が起こり、営業で釜石にいた日浅が被災したかもしれないと知る。

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 「影裏」を読み解くためのキーワード①『描写力』

 

芥川賞選考委員:高樹のぶ子氏談
自然描写が非常に優れていると私は思いました。特に魚とか、川とか、まあ、あの岩手の自然を描く筆力というものは私は買いました。
2017年7月19日芥川賞選考委会見より

 

その選考委員を唸らせた描写力が発揮されている岩手の大自然を描いたシーンを外山さんが朗読します。

 

外山:岩手というところは、じつに樹木が豊富な土地がだと夏が来て改めて思う
とにかく山地が多く川が多い。
それだけ森林の密度も濃厚だから、いたるところに生き物の気配がひしめいている。
川辺や谷間の林道を釣り歩いていて、釣りそのものに、倦きがくることはたしかにあった。
だが少し視線をめぐらせると、対岸の沢胡桃の喬木の梢に、コバルトブルーの小鳥がいたり、林の下草からは山棟蛇が、本当に奸智が詰まっていそうに小さくすべっこい頭をもたげて水際を低徊に這い出す姿を目の当たりにした。
一種の雰囲気を感じて振り仰いだら、川づたいの往還に、立ち枯れたように直立している電信柱のいただきに、黒々と蹲る猛禽の視線とわたしの視線がかち合ったりした。

『影裏』より一部抜粋

 

なぜ岩手を舞台にして書こうとしたのかといえば、やはり知っている場所だからこそ一番説得力があるので、実際に近所で車で5分ぐらいのところにある描写している場所を今回は沼田さんに案内してもらいました。山奥にある渓流の綺麗すぎるところはロマンチックすぎて格好悪いから選びたくなくて、あえて普通のところに流れている川を扱いたくて、近所の生出川を選んだ沼田さん。

釣りをしなくても、ただぼ~としに来たりと沼田さんもよく来る生出川。

 

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場所としてはここら辺を想定したものの、時には植物だとかは上流の方とかいろいろ混ぜて書いたそうです。吾郎さんらが読んだ内容そのものがここにあり、まさに描写だと吾郎さんはVTRを見ながら感じたそうです。

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 「影裏」を読み解くためのキーワード②『マイノリティ』

 

芥川賞選考委員:吉田修一氏談
セクシャル・マイノリティを恋愛や性愛を通さず書いている。と絶賛
2017年7月19日芥川賞選考委会見より

 

【影裏あらすじ】 
主人公・今野の元恋人で性同一障害を抱える副嶋和哉がSRS(性別適合手術)を受け、女性として登場する。

 

そんな吉田さんが絶賛するシーンを吾郎さんが主人公の今野、そして副嶋を外山さんが朗読します。

 

吾郎:モニターの時刻表示を確認すると、二十二時五十七分。
まだそうみじめさばかり誇張されて伝わる時刻でもない。
充電コードはぶらさげたまま<電話帳>から副嶋和哉の名前をさがした。
副嶋(外山)「びっくりした、なんか突然って感じで」
記憶の中の面影と合わない、穏やかな女性の声だった。
副嶋(外山)「まあ何でもだいたい突然なんだけどね」
別れる直前の夏だったか、SRS(性別適合手術)を施術するつもりだと和哉が公言していたことを、わたしは思い出した。
今野(吾郎)「変になつかしくなってさ、別に用事ってないんだ。だから無意味な電話なんだよ」
副嶋(外山)「用事がなくっちゃ連絡しちゃいけないわけ? わたしが朝したメールだって、無意味だもん」
今野(吾郎)「いってみればあれの反応なんだよな。そっちのメールがきっかけになって、こんな時間まで消え残ってて、しまいには電話してるっていうさ」
副嶋(外山)「そうじゃないかなと思ってわたしもとった」

『影裏』より一部抜粋

 

なぜセクシャル・マイノリティを描いたのかと言うと、沼田さん自身も生きている間にそういう方に知り合い、お友達になって会うことはあったと。結構大変なんだろうなと思ったり、彼女の言葉が印象が残っていて、助けたいとかではなくふっと出てきたと。小説の中ではマイノリティをテーマにされているのかと問う吾郎さんに対し、沼田さんは“いろんな状況で人はマイノリティになると思うんですよね吾郎:うん、そうですね)そういうものをすくう。すくうというのは助けるのではなく、ザルですくうというか、すくいとるのが文学の役割の一つだと思って”と語ります。吾郎さんも“何かこう芥川賞作品ってやっぱりそういうマイノリティとか、そういったものが根底に絶対ありますよね”と肯定しますが、沼田さん曰く、案外偶然だと。沼田さんは小説の大枠は決めるものの、そこから小説を書いていくと自然とそれていくらしく、それは“小さくまとまるなよ”と作品から呼び掛けられているようで、あえて沼田さん自身も失敗を覚悟でそちらの道を選んで書かれるそうです。そういうコントロールできなくなったときが“一番良いパフォーマンスが出来る”と頷く吾郎さん。

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 「影裏」を読み解くためのキーワード③『東日本大震災

 

芥川賞選考委員:高樹のぶ子氏談
決して震災というものを全面に押し出した小説ではないですよね。これはこうひそやかに一歩引いているんですが、人間関係を描くことで、それを取り囲む大きな自然の怖さというものに言及していると、私はそういうふうに思いました。
2017年7月19日芥川賞選考委会見より

 

今回、芥川賞受賞作品の中では初めて東日本大震災が描かれたことでも話題に。そのシーンを吾郎さんが朗読します。

 

吾郎:あの日早朝から家を出て、午前中は契約を求めて釜石市内の住宅地を回り、けれど振るわず、あるいは首尾よく契約をもらって安堵した日浅が、さてここからは自由時間だと海岸沿いに車を走らせる。
十四時四十六分。
ソイやアイナメマコガレイなどではち切れそうなクーラーボックスに腰をおろして、日浅は海を見ている。
ふと凄まじい揺れを、足もとから全身に感じて立ち上がり、思わずいったん、顔を空に向ける。
テトラポットを軽くひと舐めするように、黒々と濡らして消える波の弱音を聞く。
この数十センチの小波はしかし、あの大津波の第一波なのだ。

『影裏』より一部抜粋

 

影裏』は2010年~2011年の話で、あの時代の人や社会を書こうとすれば自ずと震災の匂いがしてくると東日本大震災を取り扱った理由を沼田さんはそう語ります。ただ、沼田さんご自身はその時代の人を書いただけであり、その結果、震災の匂いが立ち上ってきただけであって、途中からは意識はしたものの、当初から書こうという意思の上で書かれたものではないそうです。

f:id:kei561208:20170523013943j:plain タイトルを『影裏』にした理由

影裏』という言葉にまったく意味はなく、作中に“影裏”みたいな言葉を自分で毛筆で書いて、それを飾ってそうな70代ぐらいの人が登場する。その書かれる言葉はなんでも良かったものの、何となく“影裏”という言葉を書いていそうなイメージがあったので、それをタイトルにした沼田さん。ただ読まれた吾郎さんらは“影裏”という感じは話や作品としてすごくしたと。

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 地元初サイン会に密着

岩手県としては初の芥川賞作家となった沼田さん。当然、県内の本屋さんでは受賞を知らせるポップを作って祝福ムード。

 

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そこで地元で開催されたサイン会に『ゴロウ・デラックス』もお邪魔すると、会場にはサイン会の抽選に当たった100名のファンが。そして地元テレビ局からの取材陣も。初のサイン会に緊張するそぶりもなく、一人、ひとりのファンに話しかけ、丁寧に対応する沼田さん。中には地元ということもあり、沼田さんが勤めている塾の生徒さんも。ただ反応は“あぁ……”ともの凄く薄いものでしたがw ちなみに生徒さんに本の感想を尋ねると“先生を想像しすぎて、真面目に本を読めなかったです”という可愛らしいコメント。

 

www.iwanichi.co.jp

初の芥川賞作家ということで、地元の方々は岩手県民として誇りに思うと。ただご本人は“吾郎そっとしておいてほしいタイプの方なのにね。書きたい人なの。もう嫌なの、TVとか。マイクとか付けられて。しょうがないですよ、だって芥川賞取っちゃったんだもん。次会ったとき、羽田さんみたいになってたら僕ビックリしますよ。すっげえ喋って出てきたら”とりあえず、吾郎さんの中で羽田さんはオチにしてもいい人なんだというのが伺えます。かつてその場所にいたのは西村さんだったのにw

ちなみに『影裏』は新人純文学作家の登竜門とも呼ばれる文學界新人賞も受賞しており、ダブル受賞の快挙を成し遂げているのです。⇒文學界新人賞受賞作・候補作一覧1-123回|文学賞の世界

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 気になる賞金の使い道は?

文學界新人賞(50万円)⇒車検・自動車税国民年金の滞納で使い果たす。

芥川賞(100万円)⇒こちらは貯金しましょうという吾郎さんに、まだちょっと国民年金が……と沼田さん。無事に貯金できたのでしょうか?

 

f:id:kei561208:20170523013943j:plain 山田くんの消しゴムハンコ

 

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とにかく、収録始まった当初は真っ白な顔色で、ガチガチに緊張していた沼田さん。まさにそっとしておいてほしいタイプな沼田さんにとり、芥川賞を受賞したとはいえ、TVに出るなんて想像外だったのかもしれませんが、初のTVが無理に盛り上げたりすることもなく、ただゲストに楽しんでほしいとおもてなしをする吾郎さんと外山さんの『ゴロウ・デラックス』だったのは良かったのかもしれません。まさにそういう繊細な部分も含め、久しぶりに小説家というパブリックイメージにあった作家さんだったように感じました。

 

ゴロウ・デラックス 
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