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- 考える葦 -

某男性アイドルグループ全活動期メンバーで、左利きな彼(稲垣吾郎)を愛でる会

父と娘の復縁物語と『ゴロウ・デラックス』

吾郎さんがMCを務める毎週木曜日の深夜0:41からTBS系列で放送している『ゴロウ・デラックス』という30分の読書バラエティ番組をご存知でしょうか。内容としましては

 

SMAP稲垣吾郎とTBSアナウンサーの外山惠理の2人が、辛口トークを展開する番組である。原則として一冊の本を取り上げ、著者をゲストとして招いてトークする。対象作品の一部をMCの二人が朗読する。

             “Wikipedia『ゴロウ・デラックス』より”

 

ということで2011年4月14日から放送が開始され、当初の女性MCは小島慶子さんが務められ、現在の外山恵理さんに変更となったのは2014年4月24日放送分からとなります。

この番組は昨今のバラエティを考えると本当に良質な番組だと思います。その具体的な良さについては他力本願で大変申し訳ないのですが、女子大生のヲタクさんによるブログ『どうして愛はお金がかかるのだろう?』より【ゴロウデラックスという良質な深夜番組があることを知ってほしい】こちらの記事が本当に素晴らしく、そのとおりと一語一句頷けますのでよろしければご一読くださいませ。 

 

2月18日の195回目となるゲストは井上麻矢さんで、課題図書となるのが、  

夜中の電話 父・井上ひさし最後の言葉

夜中の電話 父・井上ひさし最後の言葉

 

井上麻矢さんの父親である井上ひさしさんが癌という病魔に侵され、刻一刻と病が進行していく最中、自身が主宰し、自身の戯曲のみを上演するために立ち上げた“こまつ座”という演劇制作集団を三女の麻矢さんに託したことでその行く末が心配になったのでしょうか。突然、麻矢さんの元に入院中のひさしさんから夜中の電話がかかるようになりました。時として会話は続き、夜が明けるまで続いたこともあったそうです。

その内容は生き方に始まり、仕事に至るまでと多岐にわたり、父の言葉を何かあったときに見返そうとノートに記していた麻矢さんは元々は出版する気などなかったものの、周囲の「お父さんが遺した言葉をあなただけのものにしてはダメだ」という助言に従い、77という厳選した言葉にまとめ上げて出版したのが本書となります。ちなみにその井上ひさしさんについては、

 

d.hatena.ne.jp

こちらで詳細は確認していただくとして、1964年にNHK総合テレビにて放送された人形劇『ひょっこりひょうたん島』がすべての始まりでした。個性豊かなキャラクターたちがミュージカル形式で笑いと風刺、冒険の物語を繰り広げ、当時子どもたちに絶大なる人気を誇ったこの脚本を、井上ひさしさんはもう一人の山元護久さんと担当され、それをきっかけにして本格的な戯曲執筆を始め、他にも小説や随筆等にも幅広く活動し、その著作は膨大な量となります。時には直木賞や演劇界の直木賞と呼ばれる岸田戯曲賞を受賞したり、その実力も言うまでもありません。また井上ひさしさんの本を読んでいなくても、『ひょっこりひょうたん島』の主題歌、他にも『ムーミン』の主題歌である「ムーミンのテーマ」、『ひみつのアッコちゃん』の主題歌といった歌詞を耳にした方は多くいらっしゃるでしょう。その歌詞を書かれたのが井上ひさしさんなのです。

吾郎さんとの関わりでいえば、2011年に主演された「泣き虫なまいき石川啄木」の原作も井上ひさしさんで、

 

文学で名を成さんと上京した石川一(啄木の本名)は、故郷に残した母と妻子を東京に呼び寄せるが思うような評価も得られぬままの貧乏暮らし。何かと気にかけてくれる親友・金田一京助からは借金のし放題。せっかく新聞社の校正係に就職しても、口実をつけてはサボり、悪びれる素振りもない。しかし、狭い間借り暮らしで嫁姑の諍いも絶えず、病魔や妻への疑念など、その苦悩は深まるばかりだ。まさに「実人生の白兵線」の真っ只中。そこに啄木以上にいい加減で酒に目がない父・一禎までもが上京。一家の暮らしは貧窮を極め、ある事件から社会の矛盾にも憤りを抱き始める。

そして、次第に自らの創作に使命を見出し、その感性を研ぎ澄ませていくのだったが……。

      シス・カンパニー公演:『泣き虫なまいき石川啄木』より

 

井上ひさしさんの病気が発覚してすぐ、舞台主催者であるシス・カンパニーの北村社長はひさしさんに直接電話をし、「稲垣吾郎で“泣き虫なまいき石川啄木”を上演したい」という報告はされていたそうです。残念ながら井上さんは2010年4月9日に亡くなられたため、吾郎さんの舞台を観ることは叶わず。大変残念ではありますが、ひさしさんご本人も「いいんじゃない、よかったね」と喜んでおられたと麻矢さんの口から語られたのが嬉しかったです。

そして渡される『泣き虫なまいき石川啄木』の台本を見、井上ひさしさん特有の長台詞に「言い回しが歌を歌っているように、リズムとか、呼吸とかね、間合いとかがやはり喋ってて気持ちよくなってくる」と語った吾郎さん。このコメントはそれこそ役者でもないので生意気ではありますが、実によくわかるなあと。ひょっとしたら個人的に感じているだけかもしれませんが、作家が書かれる文章には呼吸というか、リズムがあって、やはり上手いと言われている作家さんは文章が流れるようで引っ掛かりを感じないのです。おそらくそれは井上ひさしさんの座右の銘でもある、

 

「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに書くこと」

 

この言葉も関係しているのかなと勝手に思っています。柔らかく、優しく、相手に思いやりをもって伝えるというのは、書き手側がきちんと読み手側のリズムも考えながら書いている証拠なのかなと。

その課題図書を読んだ吾郎さんが一番心に響いたのが作中54番の

 

いい芝居を見た後、「自分の人生はそんな捨てたもんじゃない」と思い、さらに自分の人生が、何だかキラキラしたものに感じられる。そんな芝居を作りたい。

     『夜中の電話 父・井上ひさし最後の言葉』著:井上麻矢

 

「これが素晴らしいなと思って。生意気ですが、僕もすごくそういう風に思うんですよね。それってお芝居の良さであって、そういう風に自分も思うし、観に行って。そうやって思ってもらえたら、こんなやっぱりやってて良かったなと思えることなくて」

舞台に携わる方はすべてがそう感じていらっしゃるのだろうなとは思いつつ、改めて吾郎さんの口から語られることで、だからこそ吾郎さんは舞台が好きだし、何があろうとも舞台から離れられないのだろうなとも感じました。

この番組の中、麻矢さんは井上ひさしさんと疎遠となったきっかけである言葉、“僕、子育てを間違えたって”をある人に言われたと語りましたが、ひさしさんの後妻さんなのは有名な話で、実際、麻矢さんの他の本にも記されていたと記憶してます。10代後半とはいえ多感な時期に父母が離婚し、後妻となった方にそう言われたと嬉々として報告する父親に娘が怒りと失望を覚え、大きな壁ができたように感じるのは当たり前のことではないでしょうか。それをきっかけに20年という年月、父娘は疎遠となってしまうのですから、本当に「言葉は一度出したら戻らない」ものなのです。番組の最後に紹介された

 

言葉はお金と同じ。一度出したら元に戻せない。だから慎重によく考えて使うこと。

     『夜中の電話 父・井上ひさし最後の言葉』著:井上麻矢

 

これは井上ひさしさん自身の後悔でもあるんじゃないかなと。番組の最中に麻矢さんが嫌なことがあったときは父に励ましてもらおうと留守番電話の録音を捨てられずにiphoneに移してメッセージを聴くそうですが、その再生をしたメッセージに込められた言葉を聴くと余計にそう感じます。

 

「麻矢くん。えっと、別に用事はありません……以上で何の用事もありません。ではでは」

 

実に父娘のやり取りだなと。あれだけ戯曲では、小説では、随筆では自由自在に言葉を操る井上ひさしさんが、ただ娘を前にするとシャイで不器用な父親に戻るのですから、こんなことを言っては失礼かもしれませんが面白い。逆にいえば、この夜中の電話は本当に父親が娘を案じた結果、かけた電話であることも伝わってきます。だからこそ、一度放ってしまった言葉は自分が意図したものと違ったとしても元には戻せない。その放たれた言葉で傷ついてしまった娘の心も戻せない。20年という年月が互いに存在していただろうわだかまりを融かし、最後は夜中の電話を通じ、普通の父娘へと戻るための修復がなされたとしても、そのときに感じた気持ちは消えないのです、おそらく一生。それは作家である井上ひさしさんが一番理解していることだと思います。だからこそ、娘に自身の後悔も兼ねて言葉として伝えたのでしょう。

特にSNSなど、簡単に匿名で言葉を発するツールを手に入れてしまった我々にとって、この言葉はすごく重い意味を持つように感じます。安易に発してしまうけど、ネットの向こう側にはまた人がいるのだと、自分が傷つくことがあるようにそのネットの向こう側にいる人も傷つけてしまう可能性があるのだというのを心がけ、慎重に言葉を発していかなければいけませんね。

そしていつも感じることではありますが、本当にこの番組はMCが、そしてスタッフが、迎えるゲストを最大級の敬愛を持って接しているのが感じられるのが心地良い。ゲストの本に対し、どうしたらその本の良さが伝わるのかをすごく考えているのも伝わるし、MCのお二人もきちんとゲストの言葉に最後まで耳を傾け、話しかけるにしても片方が出れば片方は引きと昨今のバラエティにありがちながちゃがちゃした感がなく、どちらかといえばTV出演に不慣れな方に負担がかからないよう心掛けているのがよくわかります。そして最後に消しゴムハンコを披露する山田親太朗くんも、今回は井上ひさしさんと井上麻矢さんのお二人を、そしてその二人を繋ぐ電話の線がハートマークで飾られるという、実にこの本書そのものを表した優しい消しゴムハンコでもありました。

まさに誠実に彩られた番組は、いろいろと深く考えさせられる内容であってもどこか柔らかく、どこかほっとさせてくれる深夜番組でもあるので、出来ればもっと多くの方に視聴してもらいたいです。残念ながら全国放送ではないため、場所によっては未放送地域も多々あると思います。深夜放送に関しましては地方局の裁量となるため、未放送地域で一度視聴してみたいとお思いの方はぜひ自局に放送をお願いしてみてください。

読書バラエティという言葉どおり、知的でありながら楽しめる素敵な番組、それが『ゴロウ・デラックス』なのです。